君は聴いていないだろう、わたしは生者だ。

先週はとても充実していた。お盆時は佐渡ヶ島で過ごし15日に帰宅。16日17日はTHE NOVEMBERSを見て、18日はNumberGirl野音の音漏れを聴きに行った。どの話から始めよう、やっぱり音楽の話からだろうか。

 

天使のピクニック

最新作ANGELSと初のフルアルバムpicnicの2枚の曲を全部演奏すると聴き、チケットを買おうとするも本公演はソールド。どうにか追加公演が取れたので行ってきた。とても、とてもよかった。

THE NOVEMBERS自体はずっと聴いていた。それこそ11年前picnicが出たときもリアルタイムで聴いていたはずだ。初めて見たのはparaphiliaのレコ発のワンマン、渋谷クワトロ。あのライブではずっと泣いていた。ずっと痛くて痛くて泣いていた。

あの頃わたしはTHE NOVEMBERSは長く持たないバンドだと思った。あまりに清らかで美しく、繊細で、そんな心でどうやって生きてゆけるのだろうと。汚されるしかない白、守り抜くことのできない白。痛みを感じやすくて、澄んだ心をしている。それが彼らに対する印象だった。

それが変わったのはいつ頃だったろうか、Misstopiaくらいだろうか。おや、と思う瞬間があった。狭い世界で痛みを抱きしめていた青年が、攻撃性を帯びている! 別にそれで離れたわけでもなかった、新譜が出たら必ず聴いた、新譜はもれなく格好良かった。機会があればライブにも行った、常々彼らは格好いいバンドだった。最新作ANGELSを聴いて驚いたのは、「このアルバム好きだ」と思ったことだ。そして初めて、「このバンド好きだ」とばかり思っていたことに気が付いた。

 

硬派な曲の揃ったANGELSと生々しい血肉のpicnicが並ぶとどうなったか。あのpicnicが、失われる白が、こちらを焼くような強い閃光のような白として演奏された。

ガムシロップ、アイラブユー、アマレットという冒頭の3曲がもう既によかった。ガムシロップから連続するように叩かれたアイラブユーのイントロのドラム。太くて柔らかい音、木のような揺らぎ。2Aの歌い出し、「愛しているさ」のときに入ってくる楽器たちは水がちゃぷんとするようで心地よかった。最初の「愛した言葉食べられたい」の囁くように声量を抑えた歌い方、彼はファルセットもシャウトも綺麗に伸びる、説得力がある。

胸が抉られそうなほど多感な3曲のあとに演奏されたのはANGELSからplastic。電子音をふんだんに使った曲がこの並びで来ること、それが特別浮かずに格好いいこと、そう格好よかった。ライブが終わるまで格好いいと思いっぱなしで、こんなにライブに没頭したのは久しぶりのことだと思った、とても気持ちがよかった。聴きなじんだ曲たちが現在の彼らの強さを持ってして鳴らされること、最新アルバムの曲を聴けることも嬉しく思えること、なんだか総てがよかったな。

この演奏の強度ならきっと肝になると思った白痴の凄まじいシャウト、そこからこわれる。感傷的な懐古に納まらない新しいpicnicに、とても胸を打たれた。その日しか行けないというのに終演後にTシャツも買ってしまった。

結局、翌日の本公演も当日急遽都合が悪くなったという方から開場の少し前にチケットを譲って頂き、行ってきた。浮かれて買ったばかりのTシャツを着て出勤した甲斐があった。

 

清らかな痛みのアルバムというところから認識をアップデートできてよかった。ようやくあのアルバムを聴いて格好いいと素直に思える日が来たのかもしれない。いい、とてもいい公演だった。

  

真夏、蝉、透明少女

2日間THE NOVEMBERSを見て、11年前と今とを繋いだ翌日はNumber Girlの音漏れを聴きに野音へ。なんにも繋がらない、彼らが解散したときわたしは彼らを知らなかった。わたしが初めてNumber Girlを聴いたのは16歳のときで、「彼女が初めてNumber Girlを聴いたのは17歳」ではなかったことを悔やむ羽目になった。ビールを初めて飲んだのも17歳ではなく、そもそもビールを飲めるようになったのは比較的最近の話だ。

だから、ビールとチューハイを鞄に入れてひとりでいった。音漏れを聴くためにきたひとがたくさんいて、見えなかったけど、聴こえたよ。透明少女の演奏直後、隣のひとが乾杯と缶ビールを持ち上げた。乾杯の高さに持ち上げてあった缶をぶつけた。外でうだうだ飲みながら視覚を排除して楽しむNumber Girlもとてもよかった、もちろん入りたかったけれど。

チューニングで分かったのだ。ここで晴らさなくてはダメだと思った。飲みかけのチューハイを置いて鞄からビールを出してプルタブを引く、YOUNG GIRL SEVENTEEN SEXUALLY KNOWING。特別好きな曲というわけではなかったのだけれど、そこで初めてばたばた泣いてしまった。彼らの不在の間に勝手に募らせた思いの重たさに自分で驚く。二十歳の誕生日に右肩にハートの刺青をいれようかとさえ検討したことを、思い出してるちょっと。

蝉の声がうるさくてMCなんて聴こえやしなかった、でもそれがすごくよかった。わたしはお酒が飲めるようになっていて、そういえば生まれて初めてオールナイトイベントに参加したのはNumber Girlがかかるというイベントだったな、下北沢。わたしは無敵の年頃で、明け方アスファルトに寝転がって空を見ていた(当時たびたびアスファルトに寝転がって空を見ていた)。

 

 

大好きな音楽が今日も足元まで続いてること、鼓膜を揺らすこと、連綿と揺れたり揺れなかったりする心があって、いちいち大袈裟に嬉しい。