宙を着たヴィナス


二度寝を繰り返した起き抜けに、なんとなく心が弱っている時分に縋っていた曲を聴いてぐらついてしまった。思い出せない頃のことを考えるとこういう気持ちになってくる、昨日の写真はまだ最悪の時期の前で、実はさほど痩せている時期ではない。しばらくしたら、更にここから3kg程落ちるはずだ。痩せたところで肉がないことよりも骨があることに目が行く骨格をしているので華奢にはならなかった。

昔の自分の感情と重なってしまう心地がするときは距離を取らないといけない。戻らないことも戻れないこともわかっている、なのにどうしてこんなことで不安定になったりするのだろう。そういう日だ、としか言いようがない。肋骨を応援するばかりです、絶対に心臓を落とさないでね。

 

 

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そういえば今日は長野にいる予定だったとメールを受け取って気づく。先月の時点で予定は白紙になっていた。

 

楽しみにしていた荷物が届く。開けた瞬間に叫んだ、美しいひと。あなたのその細やかなところが、わたしは。どうしてか淋しくて少し泣いてしまった。美しい世界でまた、そっと見つめさせてください。

 

以前より、友人に「ルネッサンス吉田の漫画の主人公の女性の感じと君は近い」と言われていたので読んでみるなど。なるほど、「諦念の部分が?」と問う、肯定の返事。でも最後はみんな力いっぱい走ってるじゃん、そういうところも、ちゃんと近い?

 

ほうけていたらオーノキヨフミが弾き語り配信を始めたので聴いていた。最低になる前から聴いていた音楽の糸が目の前に垂らされてほっとした。1曲目から大好きな曲だったので嬉しい、もう長らくずっと聴いていることになる。彼の過剰なブレス、何年聴いても飽きずに好きだ。

 

気持ちが弱ったとて、実際の強度は変わらないので簡単にひとにもたれたりしてはいけない、立ち方を忘れたら困る。逃げるな、絶対に逃げるな。自分で持て、自分にはそれができる。わたしは自分の強度を信じている。だからダサいことだけはしないで欲しい。みっともなくなれるのは強さだよ、だけれど立てなくなるように持ってゆくっていうのはダサいだけ。甘えてるんじゃねえよ、と思う。わたしには毛布もあるし書物もあるし音楽もあるし。うー。
などとだらだら考えながら、いやそうだよ音楽あるし、と思って再生したのが「ニーナの為に」なの、つまりそういうこと。肋骨の努力を称えたい。

 

 

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頭でっかちになるときは手を動かすに限る、とベッドの下からKORG MS-20miniを引っ張り出す。なんやかんやあってここにいるのだけれど、それでもそういえば初めての開封だった。4年越しくらい? 箱はビニールの紐で縛られていて、一見首でも吊るのだろうかといった物々しさだったけれど解くのはそんなに難しくなかった。首を吊るのはひとだけで宜しい。ただし電源アダブターがありませんでした。ついでにいうと違うシンセサイザーの電源アダプターが入っていて、一体なにがどうなっているんだ…さすがゴミ屋敷からの……と、なんだか面白くて笑った。こんな感じでいい、とにかく手を動かすに限る。こうやって文章を打ち込むことにしたってそう。左指の腹を金属で痛くしてエレクトリックの力に頼って晒した。

 

 
晒せる恥についてふと思い出して確認したところ、あえなく悶絶。なし。拒絶。すっかり存在も忘れていたくせに思い出すときはいろいろ思い出すよね。

 

筆を折れと彼は言った、お前のぶつける先は文章ではない、お前の文章には何も感じないが、と。当時その言葉に酷く反発を覚えたけれど、まあ当時の自分にそう声を掛けるひとがいたことはむしろ幸福だったのではないか、と2020年4月11日であるところの本日、コンビニを数軒回りながら初めて思い至った。

数年後、地下にある赤い壁の建物で彼と再会した、「俺、あの頃より丸くなったよ」、確かそのようなことを口にした。あなたはそんなことを言わないでくれよ、と思った。あの言葉がただのトゲだなんて考えたくもない。何件もコンビニを回ったけれど、欲しい型の電池は揃って品切れだった。その間ずっと恥はぎゃあぎゃあ耳でうるさく、そしてわたしは未だに文章を。

 

 

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久し振りに連続して日記をつけていたら楽しくなってきて、連日何も考えずにだらだらと指に喋ってもらっている。指は偉大だ、脳の見ているものを一種の具体に落としてくれるし、楽器に触れることだってできる。


たぶんわたしの扁桃体は生まれつき活発なのだろうが関心は薄い、ただ運の良さだけが認識として残る。そう、わたしは驚くほどに運が良いのだ、それだけ認識して慎まやかに驕らずにいれば、あとは身体が総て捌いてくれる。

脳もまた肉体の一部であるわけで、精神はどこで何をしているのだろうね。誰かのところに長居して迷惑だのを掛けてなければいいけれど。

 


今日はオオルタイチと長谷川白紙のツーマンの予定だったが、無観客配信ライブさえも中止と昨日の報。だからわたしは手前勝手に気持ちよくなることにした。大好き、この音で光合成する機関になりたい。