たまに自分がにんげんなのかどうか自信がなくなる。限りなくにんげんの振りをして彼彼女らに取り入っている醜い生き物だとしか思えない。いや、にんげんは美しいものであるのかとかそういう話ではない、ただにんげんの振りをする時点でにんげんより随分と醜い。劣っているという意味で用いられる「亜」が近い。
かつて天使を見たことある、夢でだけれど。その夢は今まで見た数多の夢の中でも特に印象的な夢のひとつで、「天使学級」と呼んでいる。天使学級の内容については割愛するけれど、とにかくあれは不気味な夢だった。
夢の中ではひとことも天使という言葉は出てこなかったけれど、わたしには無表情で直立しているにんげんのようなアレが天使だとわかった。石田徹也の絵そっくりの不気味さ、トラウマティックな雰囲気。翼を持たないわたしは淡々とただ落下した。天使たちは順番が来るとシステマティックに飛び立って、誰ひとり異端のわたしを助けなかった。足元からすっぽりと抜け落ちて、落下したのは身体ごと、心まで。わたしだけ。
未だに落下しているのではないかと、いつまでも落下するのではないかと、ぼうやり思う。一生このまま、安心などできないスピードで、地面に叩きつけられることさえなくて、ただ落下する。どこにもつけない、ずっと不安に苛まれ続けるのではないかと。
振りばかりしている自分は、にんげんにしては随分と酷薄な精神だから、本当はアレが、わたしなのではないかと思う。
減った数字を見たらショックだったのか、頭は貪欲に食事をしようとようやく行動し始めた。それでも、長いこと薬と酒にじゃぶじゃぶ浸し続けている内臓はどうだろう。いや、それにしたって悲観するほどじゃない、自分に酔っていたいだけなのかもしれない、だとしたら嫌だな。
寝付きの悪いわたしだけれど、寝付いたあたりで獰猛な夜が牙を向いてこの身体をふたつに裂いてくれたらどれだけ楽だろうね。もう二度と眠りたくない、眠ったら二度と起きたくない。
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まで書いて意識を落とした。すこやかな身体で眠りにつけば、当然のように目は覚める。奇跡みたいだけれど辟易とする事実。いつだって本当に思っている、もう二度と眠りたくないし、眠ったら二度と起きたくない。
昨日の夜中は少し憂鬱な気分だったのを覚えている。自分が醜くはしたなく下卑ている低俗で有害な存在だというのを一度知覚すると水が酷く荒れる。
毎回毎回、ひとりじゃ持ちきれないよ、と思ってぎゅっと布団などを握りしめているけれど、誰かに持たせて楽して逃げられるような代物だとも思わないので、やっぱり手前でどうにかするしかない。鍵盤をカタカタやりながら身体を固くして待っておく、あとは薬物動態学で学べる手順である程度はなんとかなる。チョロくないと何も効かない、プラシーボ効果はどんな薬にも勝ると思い込むことは人生の難易度を下げるのにひとつ有効な手立てだ。
そういえば、催眠術に掛けられたことがある。バーカウンターに立っているとき。きちんと職業でやっている方だと仰っていたのと、周りに友人含むお客さんも何人もいたのとで、まあ平気かなと思ったのだ。会話の種になればと、そして何より好奇心が。自分はきっと催眠術に掛けられやすいほうだろうと思っていたから試してみたかった。
記憶は薄いが、遊びに来てくれていた友人が「えっ催眠!?えっちな漫画で見るやつだー!!」と叫んだのは覚えている。内容としてはよくテレビなどで見かけるものと似ていた、「どんどんとろーんとしてくるよ」とか「目を開けたら何もかもが面白く感じるようになっています」とか、ああいう。わたしは綺麗に掛かっていた。何を掛けられたかはいまいち覚えていない。
目を閉じて聴覚だけに意識を持っていくと大変な感じになる、聴覚というのは本当に脳に直接結線されているのではないだろうか。などと思いながらふと思い立ってイヤホンでASMR音声を聴いてしまったがゆえ、もうこれは今日は使い物にならない脳。脳は身体をどうこうするがゆえ、身体ももうダメ。
憂鬱とかいうメンタルの乱れから気を逸したかったら、フィジカルを先に乱せばよい。そういう乱暴な破壊衝動で構築している。
五感をフルに使いたい、鮮烈な刺激が欲しい。こうも動かないとかつての宜しくない日々に接続していってしまいそうで少し怖い。
でも、身体ってすごくって、前述の通りやっぱり減った体重見た途端食べることに意欲を見せているから、今日も朝から食べたから、その点で既にわたしは過去の自分ではない。何を失ったとしても、わたしは何も失わない。総てが収穫、ハーベスト!
かつて友人の20歳の誕生日に、CDを焼いて贈った。そのCDにつけたタイトルは「何も失わない」、People In The Box「一度だけ」の冒頭の歌詞からの引用。昨日生まれて初めて金髪にしたという彼女が、髪をどんな色に染めるのか楽しみだ。あなたは何も失わない。わたしも何も失わない。当然、君もだ。
色っぽい歌でも聴きましょう。大好き。