u're 因 me


また歳を取った。日付が変わる数秒前にかかったコールを取り、日付が変わった十秒ほど後に切られた。耳元ではお馴染みの曲が鳴っていて、こういう呪いのかかりかたもあるよね。ノロイと読むかマジナイと読むかはあとから決めます。
完全数が好き。6月28日に数字を増やし続ける人生。完全になどなれないことをまた実感しながらこうやって生きていて、じゃあこれを完全とするしかないよねなどと思う。


なりたいものになれるよ、鳥にだってなれるよと言う。肝要なのはしないことを決めて必要のないことはしないことと、イメージを強く持つことなんだそうだ。

 


毎日少しでもいいから家の外に出よう、と決めている。引きこもりの日々をどうにか打破しないといけないと思っての荒療治だった。やめたら引きこもりに戻ってしまうのではないかという強迫観念じみた思いで日々どうにかこうにか、もう本当に「少し」の日もあったけれど、外出をしている。
それが先日6月28日、つまり誕生日の時点で連続3765日となっていた。まるっと10年が入る日数だ。確かに、どうにかこうにかなっている。


ひとことでいうならとにかく新宿にいた10年だった。20の誕生日を迎える少し前から新宿で過ごし続けていて、公私ともに新宿まみれ。そうでなくたって新宿が乗換駅になるようにしたりして、日々を新宿で過ごしている。お金稼いだりお茶したりご飯食べたりお酒飲んだり笑ったり泣いたり感動したり喋ったりキスしたり、本当に大体を新宿で為した。


思惟を切らしたら死ぬ、示威を切らしても死ぬ、大丈夫、上出来だ。張り詰めたものを撫であげて、絶対に切らない。指が切れてもキリキリと。

 

 


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概ね10年の間、月に1度自由が丘に通っていた。自由が丘には大きなブックオフがあるから用事を済ませてそこに寄るのが楽しみで、そうでなくてもよく散歩をした。喫茶店で焼き立てのスフレを食べることもあったけれど、気づいたらその喫茶店はなくなっていたのだったと思う。ふと、あのスフレのとろとろした揺れ方が脳裏をよぎった。いつもチョコレート味を選んでいた。

 


時間がないというのに正しさで時間を奪ってくるひとがいて、確かに慎重を重んじる姿勢は大切なのだがいかんせん普段わたくしめはその姿勢ではないがために不用意に指先が震え、どうしても態度を取り繕えない。というより身体がもう1秒でも多くその御託は聞きたくないと遮ってしまう。
あ、そうですよねはーい、はいはい直しますはい、などと敬意のなさは明らかだが、あなたの慎重を重んじる姿勢に対しては敬意を示していることをここに記録したい。あなたのことがもう前提として苦手なのだ、あなたに敬意を抱けないのだ。
書いたことのない書類もあなたが弾いて二度手間になると面倒だと思って書き方を聞きに行ったのに「考えろ」などという。「すみませんてっきり日々見てらっしゃる書式でしょうのでご存知かと思ってお尋ねしたのですがそうではなかったようでお手数かけました」などと言わなかったのがギリギリのところ。自動ドアくぐり抜けて呼吸の震える溜息、取り出したイヤフォンを突っ込んでC.B.Jimを再生。とにかくスカッと叫んで欲しかった。
ぱんきーばーだ、ひぇーーーーっ(フルャァァアハッアーー)!

 

 
珍しいひとから連絡があった。珍しいといったが先月も少しだけ連絡をしたし、近況はちょくちょく聞くこともある、けれどもう5-6年以上は会っていない。また会うことがあるのかないのかもわからない。結局いまどうなっていて、何を考えていて、未だに企みがあるのかもわからない。
わたしはといえば、もうここ10年ほどあのひとにはほとんど嘘しか話していないけれど、それに気づいているのかどうかも知らないし興味もない。別に不幸になって欲しいわけではない、ただ致命的に興味がない。でもずっと病気大変そうだね、そこはマシになるといいよねって思ってるよ。復讐と呪いと無関心、あのひとのために祈る気持ちなど毛の一本ほどもない。
わたしはきっと、あのひとにとっての「東京」だった。きっと東京は個人に情を向けたりしないから、きわめてわたしは与えられた役割に誠実と言えるだろう。

 

 


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寝たふりと言うには随分とまどろみに傾いていたわたしにあなたは話しかけた。それを聞き流せなかったために寝たふりをしていたこととなったわたしは、「大きくなったらねえ」と緩みきった頭と口調で返した。あなたはそれを録画していて、あの動画ってわたしは持っていなかったはずだから、きっともうこの世のどこにもないのだろう。
つまり、大きくならなかったというだけのことだったのだ。わかる、成熟した部位などなかったもの。
こんなことほとんど忘れていたのに、思い出してしまった。

 

口約束でしかない、微笑ましい会話の一端でしかない、わたしはそういうやりとりが決して嫌いじゃない、むしろ好んでいる。でも軸足にしてはいけない。
「どうしたらそんなにひとに期待しないでいられるの、そんなふうになりたかった、怒りを抱えるのは疲れるよ、辛い」と訴えた彼女の様子を思い出す、「本当は誰のことだってどうでもいいんでしょ」。

 


話題になっている漫画を読んだらどうにも居心地が悪くなってしまった帰り道。使用期限が今日までの近所のドラッグストアのお誕生日クーポンで、綺麗な色や質感で楽しませてくれる化粧品ではなく、化粧水と虫刺されの塗り薬を買った。

 

もう数時間で文月がくる。じゃあまたしばらくさようなら、完全数月間。

 

 

 

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本日シャムキャッツ解散の報。第一線で活動しているのが眩しかった。何を貼ろうかとYouTubeをうろついていたけれど、「渚」を見聴きしていたら、まんまと海に行きたくなってしまった。

 

ああマイガールもいい曲だな。でもやっぱり、忘れていたのさとチャイナは桃色は外せなかったりするんだよね。北京の幽霊が君を愛してるぜ。