腐食を重ねる街


自分は酷いにんげんだな、と思ったという話。自分のことなんてわたしがいちばんわかっているのにね。思いあがってしまったな、みんなそんなに暇じゃない。この世界でいつまでも自分だけが遊び人のような気がしている。わたしだけが振り落とされて、ずっとひとりで花を摘んで遊んでいるようだ。おいていかれているのだと思う。

音楽を聴きながらデタラメに歩き始めたら知らない住宅地に出てしまったから、Google mapアプリを立ち上げたけれど白地図しか表示されなくて、もう現状そのものの比喩かと思った。そう便利に行くはずがない。わかっているのにね。こっちだろうなって方角に伸びる道をまっすぐ歩いているけれど、何度か大きく蛇行したから方角さえももう怪しい。それなのに関心を失って、こうやって携帯端末を撫でては文章を入力し始めている。歩きながら文章を書くことは結構好きだ、ここがどこだかは本当にわからない。半月だな、と思う。次の満月は31日だから、たぶん上弦の月なのだろう。


あのとき、アボカドを挟んだサンドイッチを食べながら、わたしは無造作にひとを傷つけていた。幼かった上に少し頭がおかしかったのだ、傲慢だった。そして今も何も変わっていないことに哀しくなる。やらずにいたことだからうまくできない。そう、ちょうどそのとき偶然聴こえたのが「有明けの月」だった。わあわあ泣いて、正しくひとり。結局わたしはここに立ち戻るのか、と目指していたものと真逆に位置するはずのものを見ながら思う。
歌詞を読むと隅々まで散々で面白いくらいなのだけれど、でもわたしのいる世界はここだよなあと思う。ボクは垂流しの汚物だし、何でもいいから、生きていて。まったくこの曲が配信されていなくてよかった。もう本当さ、価値があるものみたいに思い込むからいけなかった、ずっと仲良くやってきた念を見落としていたから。溜息をついて舞い戻る、相応にいこう。

白地図しか表示しないくせに、駅まで連れて行って欲しいと頼んだら右だ左だと曖昧な指示だけは出してくれる。言うことを半分くらい無視して半分くらい聞いて歩いてみたら、途中で知っている景色に合流した。わたしにもそのように漠然とした方角を示してくれる何かがあればいいのに、当然そのようなものはないから、直観を研ぎ澄ませて、少しでも身体が風を受けやすいようにして耳を澄ませているしかない。やさしいひとになりたかったのだと思う、本当はずっと。それでもわたしは全部許す。ここまで書いて駅にも着いたし。でも電車は15分近く来ないんだって。

こんな念は失礼になると思って手放してみたら、親しいひとを傷つけてしまった。そのことを実感したら、不思議なことに穏やかな気持ちだ。ださいな、と思うけど、これがいちばんの甲冑だから仕方がない。ずっと脱いでみたいと思っていたのだと思う、脱ぐ理由がなかった。でも優しく剥ぎ取られて、大人しく脱いだのは、確かに誠意と敬意だった。そうしないと苦しいくらい、わたしは淋しがり屋なのだろう。

 

スポンジにシロップを浸して重ねてケーキを作る、その過程で随分甘く柔らかくなってしまった。とても食べられたものじゃない。見せ物にもならない。
思い上がって、恥ずかしいね。