live your life NOW, love NOW, don't wait til you're dead

  

ひとまず最後だと思って髪を丁寧に乾かした。傷みきっているけれど、ガサツなわたしにしては丁寧に伸ばしたほうだと思う。大切に伸ばしてきたつもりのこれを、明日、切ろうと思って。胸が隠れるくらいまでと何年も挑戦していたけれどいつも少しだけ届かない。ロングヘアーは案外に自分によく似合っていると思えてかなり気に入っていたのだけれど、傷みもひどいから一旦リセットしよう。

アヴェダのブラシで髪を梳かしながら惜しんでいる、「長い髪と今生の別れじゃあるまいに」と君は言った。そう、髪は伸びるんだけれど、それでも、切ることは怖い。ロングヘアーでなくては許してもらえないのではないか、見限られるのではないかととても怖い。それでも、全然似合わないふうになっても、笑ってくれるのなら、それだけで無敵でいられるのにな。

 

 


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「わたしが為したいことはわたしがして欲しいこと」というと誤差があって、もう少し正確を求めようと言葉を選ぶなら、「信じたいこと」となるだろうか。もしこんなふうだったら世界はもう少し嬉しいかもしれない、優しいかもしれない、美しいかもしれない。では自分がそうならなくてどうする、というだけの話です。

しかしながらわたしは中途半端なにんげんで、わりと煮え切らない日々を過ごすことが多い。途中で手を放したくなることがほとんどで、というよりわたしの履歴は挫折と中退の履歴、あらゆる場所からドロップアウトしてきたのでよく言うよねって感じなんだけれど、でもほら全部に寄り添うことはできないからね、そうそう。そういうことだよね。と早口で相槌を打つあたりに滲む自己矛盾だとかなんとか。

 

結局身勝手にしか生きられない、他人のことなどわかるはずもないからだ。それでも推し量りたいという気持ちだけは持っていたい、どうせ推し量りきれないし自分の基準でしか見られない。痛いほどわかっている、みんな違ってみんな孤独だ、それでも止めるな、重歩兵的な歩みで進め。なんか萩原朔太郎にそんな作品があった気がする、オノマトペが挟まる詩。そのオノマトペの音が思い出せないのだけれど、その音で進め。
(探してきた、「軍隊」という作品の「づしり、づしり、ばたり、ばたり/ざつく、ざつく、ざつく、ざつく。」のこと)

 

 

 

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わたしのなかで祖父は、寡黙で、怖くて、煙草を吸い、片脚がなく、自動車を正確に運転する、犬を愛する人物。幼少期のわたしの前で煙草を吸う唯一の大人だった。炭鉱で働いていたこともあって肺が悪い、そして炭鉱での事故で片脚を失って職を失って関東に越し、さっと専門資格を取得して仕事を探した。わたしが生まれる随分と前の話、まだ彼の2人の子どもが小学生くらいだった頃の話。

 

義足を装着する姿は何度も見てきた、細長い道具を脚にはめて、ズボンを履いてしまえばもうわからない。遜色なく歩くし運転もする、サイドミラーを畳んでようやくギリギリ通れる門を毎日するすると通って駐車した。おそらく余裕は左右併せて10cmもなかったろう、一度も掠ったところを見たことがない。恐ろしく正確な操縦だった。

口を開かず押し黙ったまま煙草の煙を吐く彼のことは漠然と怖かったが、一方で「脚がなくても別に平気らしい」と幼心に思った。「どうにかなる、なんとかする」という自分への過信のようなものの一端は、祖父の堂々とした佇まいを見て育ったことに起因している気がする。とはいえわたしはすぐに冷静さを欠いてしまうからなかなか彼のようにはいかないのだろうけれど。
切断されて傷口もすっかり塞がって数十年、「そういう身体」として機能して長い身体は何も過不足がなく美しかった。

ちなみにわたしが生まれる前からいた祖父の飼っていた犬の名前はむーちゃん。ボーダーコリーか、もしくはボーダーコリー系の雑種だったと思う。とても面倒見の良い中型犬でよく遊んでもらったし、まだ身体の小さかった頃は背中に乗せてもらったこともあったそうだ。銀のむーの背に乗って。祖父に似たのか静かな犬だった。むーちゃんのこと、大好きだったな。

 

祖母は言った、「今家が焼けて逃げたとして総て燃えたとして、それでも頭のなかのものだけは持ち出せる」。彼らは学歴と言えるような学こそ持たないが、ふたり揃って聡明だった。そうでなくてはこんな言葉は出てこない。
恥ずかしながらこんななりではありますが、わたくしも脳(※不便で難儀も多い)がついていて、言葉(※正確に捉えることは難しい)を持っていますから、それをどうにか希望として風に乗っていたいよ、水を口に詰め込まれる前に。

 


「あなたと日本語で交信できることは希望」という言葉はとても好ましいものとして覚えている。amとかfeelとかいろいろあるけれど、遅かれ早かれ血は煮えるものだと認識しています。ねえ、あれもまた水の一種でしかないってこと、みんな気づいてる?

 

あとこれは美しい日々。

 

と思ったら貼れない、ノスタルジックで切なくて美しい映像で大好きなのだけれど。クリックして進んでね!ということですので、クリックして進んでね。でもそれだけだと味気もないので、せっかくだし同じ曲を。