steal me, deal me, heal me

 

町が化学の臭いを発していて、鼻の奥がつんとする、と思いながら椎名林檎のマ・シェリを聴いていた。去年の春から夏頃、特によく聴いていた、「お互いを鮮明に映すだけ」。この曲を歌おうと思ってやめたのを思い出す。ちなみに化学臭さに気がつく前は丸の内サディスティックを聴いていた。その流れで当然、幸福論は悦楽編。
抜けて着いた公園ではピクニックをしているひとがいて、桜は週末にはきっと見頃だろう。リュックに詰めたチューハイのプルタブを引きたくなるけど堪えて、公園を一周して帰路。工事中だった園内の階段の貼り替え作業が済んでいて綺麗になっている。

 

まだそんなこと覚えてたの、と言われるたびにぎくりとする。わたしの感情は今日もさめない。昔の自分も言っていた、「忘れ去られたその先で、わたしはあなたを愛するから」と。今日もわたしはそう思っている。ここに誰もいないとしても。本望だ、わたしはいつでも剣を抜ける。

 

 

 

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Q.好きなひとに抱き締められるってどんな感覚?
A.身動きが取れないのになぜかどこまでも自由になる感覚


それでもわたしはいつだって自由、いまだって自由だ、このエヴァであらゆる話題が埋め尽くされるなか、天気の子をやっと見た。イッツ・オール・ライト。ピーエス・アイ・ラブ・ユー。わたしの自由をお前は笑うなよ。

混沌とした世界へようこそ、1から100までカオスの塊。わたしは君のことが好き。好きという気持ちも大抵カオスだ。ドーパミンもいずれは落ち着いてオキシトシンに埋め尽くされてゆく。どこまでも自由だ、と思える腕のなかで眠りたい。あれはきっと強く抱き締められることによって肉体が少し縮んで、精神がはみ出るからなんだと思う。肉体は精神の牢獄なのだとしたら、君はその鍵だ。

 

それが叶わないならラブホテルで構わない。ずっと頭のネジは緩めで、変な色に変わるお風呂とか照明とか、そういうものではしゃいでいたい。右隅には花束、感謝の象徴。過去にしないで、わたしはずっと今ここにいる。ずっと今ここ。
ちぎれた身体は再生するのだろうか。「したくないことはしない」と繰り返し言う君。ただ楽しく笑っていてくれたらいいなと思う、知る手立てはないのだけれど。

なんでもいいけど桜が綺麗だよ。君の子分なんだってね、いっぱい寄越してきて、全く。

 

 

 

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「突然だけど結婚と海外赴任が決まったから飲みに行こう」と言った彼女は、カラオケバーで知り合った男性と1年ほど交際して、プロポーズされた翌日に海外赴任が決まったのだという。一緒に渡米するそうだ。渡米にかかる手続き諸々のため、急遽即両家顔合わせを開催、バタバタ婚姻届を出して口座やクレカやパスポートをどうにかしている最中らしい。最後に恋をしたのは10年弱前になるね、と話し合っていたときから1年しか過ぎてない。面白いなあと思う。
彼女のパートナーの話を聞いていたら、干支も誕生日も恋人と一緒でびっくりしてしまった。そういう偶然で引き戻されては肩を揺らしてしまう。


夏ぶりに会った職人さんが随分前に作っていた型の指輪を更にブラッシュアップしてまた少し生産していると聞いたので、淋しくなった指にお願いをした。誰もそれをしてくれなくたって、わたしはわたしにいくつでもおまじないをかけることができる。

「あれ、皮肉やねえ、でもいつもよりむしろ空気は軽やかだと思った」

 


指先でなぞりきれない輪郭たちを掻き集めて抱きたい。総てが原型もなくほぐれてゆく中心で取り残される少し硬めの液体であるわたくし、早く硬度を失って床に薄くこぼれたい。乾くといいよね、跡形もなく。おやすみとおはようの時差が一致することはひとたびもないまま、束の間の交差で垂れる涙だって余すところなく乾いていったもの。わたくしは格好いい側のそんざい、今だって肩甲骨のあたりが熱いよ。

 

掴んだ分はぶっ潰して、ぶつかった分は蹴っ飛ばして、どうぞ勝ち気にこなしましょう。