投影機

 

女の肩を軽く押しながらキスをする、初めてのキスで舌を差し込んだ。決して女をどうでもいいと思っていたわけではないし、どちらかといえば大切にしたいと思い始めてもいたが、それはそれとして身体を繋げてみたいとは思った。


いたいよ、やめて、やさしくして、ってお願いして、言葉通りにしてもらえることってどれくらいあるんだろう。そんなふうに乱暴しないで、もっと丁寧に扱って。壊してもいいよってわたしが言っても、それでもしばらくは壊れもののように扱って、傷つかないようにそっと触れてよ。引っ掻いたってそうそう傷はつかないけれど、それでも。
だめだ、帰ります、もう帰りますから、唾液を潤滑剤の代わりにしないで、そんなふうに吐きかけないで、痛い、痛いから、きいて、やさしくして。身体をひっくり返さないで、立たせないで、わかったごめんね、手はどこについたらいい? うごけないから、もうよして。やめよう、やめようよ、したくない。こわいよ、ゆるして。

 

いいよ、そんな風に指を濡らさなくても、いまたぶん大丈夫だから。ううん違う、どんな味がするのかと思って。自分に味があることを知った瞬間、身体が煮えた。液体がどちらからどちらに移動しているのかも判然としない時間と感覚の頼りなさ。
わたくしの精神は水なんだけれど、それが身体に滲んでしまって含水率がじりじりあがる。一滴も漏らすまいと含みきっている、潰されて一斉に溢れだす。クリームだとかアボカドみたいな肌をしているね、と言われたことがある。汗をあまりかかない代わりに湿度の高い肌なのだと思う。

 

鏡の前に行ってみよう? 抱き上げて? キスしよう? ねえ、次は何する? 血でも流してみる?
「わざと傷口をあけて、血を奴らにみせてやらなくちゃならなかったんだ」


身体から水が抜けてゆくのを眺めていた、色には頓着していない。期間限定のLINEスタンプだって滑り落ちてゆく、まるで経血みたいでしょ?