吠空

 

昨晩わたしは一度完全になった、完全というものはこの世に存在しない、次の瞬間からまた歪んでゆく。でも、一度完全になったことは絶対に絶対に消えないから。

 

4月17日13時の約束。30分以上前には新宿についていて、候補のお店が開いているかを見てから無印でフリーズドライのスープを買った。

待ち合わせは逆方向だったから一度地下街に潜ったところ、線改札の横で明らかに顔で誰かに声を掛けようと困っている中年男性を見つけた。道に迷っているのだろう声をかけたところ、「オリジナルソングを作っているミュージシャンなんですけどいま時間ありますか」と聞かれる。断ったら、やっぱり困った顔で謝られた。何かの勧誘とも考えづらいと思いつつ南口に向かった。思い出してもよくわからないエピソードが添付されていることに笑ってしまう。

 

そう、17日の13時だから少しの茶目っ気、初めてコール音を聴いた。もう少し聴いていたかったけれど、自分の流儀に則って6回できちんと切った。いつからこんな習慣がついたのかもう覚えがない、電話は6コールで切る。なぜなら完全数だから。

一生友だちでいてねと言い合ったのを覚えていて、だから今日を正確に捉えるなら。あとから「あの日だね」と添加した情報もあるけれど、正確に言うなら。出会えて嬉しかった。言葉も捨てたものじゃないと心から思えることって、きっともうそんなに多くないだろう。
「他のひとと同じにしたくない」と言われたのを覚えている。

特別なことを言うつもりもなくて、昨日一度至った完璧を今日のわたしはまた精査したい。いまは胸にあたたかさがある。

 


少し怖い目に遭ったから逃げた、逃げる最後に痛い言葉でぐっさりやられて、息も絶え絶えに逃げた先でAJICOを聴いていた。ベンジーのギターの音ってすごくベンジーだよねと話していたら壁にかかっていたグレッチをチューニングし始めて、あれはこれの音なんだよ、と教えてくれる。抱えてみたら大きかった。

若い日のUAを見ていたからか、突然濱マイクを見たくなった。くちばしにチェリーを口ずさむ。2004年頃、フェス映像を見ていて知ったのがEGO-WRAPPIN'だった。そういえばSHERBETSのセキララの収録曲だとひまわりとゴーストが好きなんだけど、これってひまわりはAJICOでもやってたね。
その頃ミュージシャン界隈ではみんなUAと一緒に演ってみたいと言っていたという話を聞いた。緑ポ50get_!

 

秋頃、この道を歩きながらやたら暗い気持ちになっていて、やさぐれた日記を書いたような気がする、と思いながらまた身体を歩かせていて、今日の雨は好きな雨だけど歩くとなると少し厄介。革靴に染みてくる。
ああ、そういえば去年もこの靴を履いていた。出かけるときに靴紐の先がちぎれて、そんなことは初めてだったからよく覚えている。

 

書き続けているとこれが普通になってくる。
どうでもいいことを書いてはいけないと無意識のうちに思い始めるんだろうね。

ちょうどアルバムを聴き終わるとともに次に着く算段。10分に渡る波動の果てに「またどっかで会おうぜ」「ばいばい」って声。

 

わたしには何もないことをこうやって理解して、自分の理解の遅さも理解して悔しく思ったりなんだり、その果てにこうやって残ったものが見えて、持っていないものも見えて、ここがどういう場所なのか、戦場なのか楽園なのかを初めて考えられるようになるのだろう。
「ここからはじまる」とは有頂天のホワイトソングの一節だけれど、そう、
ここからやっとはじめてゆけるのかもしれない。