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「呼吸おかしい、過呼吸なってる、やめとこっか」

押し倒されて混乱している間に部屋の電気も消されていた。それら一連を為した男はそう言って肌と服の間から手を引き抜いた。やめとこっかじゃなくて始めないで。

「どうしてみんないなくなるの」と叫びながら泣いて疲弊していたところ、気づいたらキスをされていてそれで、舌を押し込まれてそれで、部屋が暗くてそれで。引き攣った呼吸のなかで「触って」と言われたのと、部屋の隅に押しつけられていて身動きが取れなかったのを覚えている。強張った身体は震えるばかりで動かない。

背中をさすられている理由もわからなかったけれど、がぶがぶ泣いているから一旦どうでもよくなった。隙あらば誰にでもそうやってしてるんでしょうけれども私にはしないでと伝える摩耗、誰にでもじゃなくてあなただからと返す壊れた頭。何年と積んできた安心感もこれでおしまい、また忘れた頃に同じことをするのでしょうから。

許可もなく勝手に身体に上塗りしないで欲しい。触られた場所だけ器用に腐って落ちてしまえばいいのにそんな風にはならないから永遠に身体を洗い続ける羽目になる。不器用にぐるぐる鳴っていた喉が変に勘違いされていないといい、いつまでも肺が痛かった。

 

誰にでもこんなふうにするわけじゃなくて。
そういうときにばかりこんな言葉が使われるから本当に疲れる。手頃なところに異性がいていけそうだったのでおしました、誰でもいいわけじゃないけれど断じてあなたがよかったわけではなくて、ちょうどよかったのがあなただっただけです。そう正確に言って。

自分にもあるのだろうか、性的魅力というもの。身体の構造として受け入れるかたち、女という曲線のフォルムを有しているという理由のみで「ある」と判断されることが稀にあるだけ。結果的に性的と雑に言われるにすぎず、魅力という加点は特にないのではないかと疑っている。誰でもいいから私でよかったんですよね。手頃でちょうどよかったんですよね。

 

好きだから触ってみたいという願望、性欲よりも手前にあるあの祈りのような感情で触れたいと言って。興味や好奇心にしては重たく、吐こうとした息を呑み込んでは身体中の細胞が逆立つような祈り。乱暴にしたくない、でも触れることは乱暴になる。怯えながら手を伸ばして、伸ばそうとして戸惑って。そんな感情を寄せられたい、ちょうどいいと思われ続けてきた分だけ。

 


仰向けに横たわって膝を軽く曲げる。薄手のカーテンしか引いていないけれど外からの目隠しには充分で、窓の向こうが明るいのを眺めていた。脚を薄く開いているのに他意はなくただ楽な姿勢だったというだけなのだけれど、そこに身体を滑り込ませるひとがいて、からかうように膝裏を撫でてゆく。笑って身体を蹴っ飛ばしたらベッドから落とされた。仕方がないのでパジャマから着替えて、ねえアイス買いにコンビニに行こうよ、じゃんけんで負けたほうの奢りねっていつもわたしが奢ってるから今日は奢ってね。互いの身体を器にしてバニラアイスを食べさせあおう、ハーシーのチョコシロップも冷蔵庫入ってる。