最終の雨

 

ぐるんぐるん風が回るのをそっと抱いて眠りにつかせてあげる。部屋は好きな暗さにして構わない、ひとと一緒に眠るのが苦手で消灯後はひとりでiPodを握りしめて泣いていた。自分は寝付けなくて、どんなに笑い合ってもすぐ置いてけぼりにされることを知っていた。ヘテロセックスのあと男性が女性より先に眠るのがどうだとかなんだとか議題に上がるらしいことは知っているけれど、それが普通だからセックス云々もあんまり関係ない。

昔と思うといまは寝つきがいくらかいいし、先に眠ったひとの顔を見るのもそんなに淋しくない。その眼差しをわたしも差し向けられたいなって思うことあるけど、何度か夜を過ごしたのに天使の寝顔を見たことがないってことはつまり。眠るわたしは酷いものだ、寝相も悪いしいびきもかく。長年の癖で身についたうつぶせ寝のせいで死体にさえ見える。

最近は断続的な睡眠しかとれていないけれど、きっと夏のせい。夏は脈と眠りが浅くなる。でも今日は数年ぶりにこむら返りで目を覚まして、これは夏と無縁であって、そこをつつく陰湿なひとありけり。

 

 

着物のように袖が大きく開いた服に着替えて、肩を出して片付けて静かにしていたら目の前でひと型のにんげんが水のように崩れた。意識を確認されながら緊急搬送されてゆくのをひとりで見ていた、さっきまで何人もいたのにひとりで。

一連を眼差し終わってから外に出たら霧雨が降り出し、それは程なくしてひどい土砂降りに変わった、そのなかを15分歩く。この土砂降りのなか失神したらドラマのワンシーンみたいだろうなあと思いながら、川のように水が流れて溜まるアスファルトを踏むしかなくて、スニーカーが一歩ごとにぐずり出すまで5分かからなかった。ワイドズボンは派手に濡れて膝下と呼ばれる部位の肌にまんべんなく貼りついたし、着替えた服はその着物のような大きな袖いっぱいに水を湛えて自重でシルエットを狂わせる。

結局濡れた自分をざっくり処理するのに30分かかって、その間に土砂降りは収まっていて、こんなことなら雨宿りをしていればよかった。着替える前の服も鞄越しに濡れてしまってもう為す術もない。

 

 

馴染みのモチーフがアップデートされていたので悩んだ挙げ句連れて帰った。指先がずっと痺れているけれど、思えば夏の間ずっと指先が痺れ続けているというのが何年かあったからそれなのかもしれない。少し重たくなる指を齧って7月を終える。

それからこれは、1分間の7月の歌。半夏生も遠く過ぎてしまったように思える、7月がもうすぐ終わる。