赤道と極が反転したミラーボール

 

傘を開いたら中央から男性がぬるりするりと落ちてきて抱き締められた。

屋根のついた車庫だから雨にあたる心配はなかった、ただ近未来的な輝き方をする白い傘が気になった。傘の開閉に使う手元の装置を頂点に向かって押し上げてゆく速度で産み落とされた男性ははっきりと仮想、ホログラムやARの類で、そのくせになんだか生々しい圧を背中に感じて息ができない。傘は全方位型のスクリーンとなって映像を示す、傘に映る映像に重なる見慣れた勝手口が現実と非現実の境目。抱き締められているせいで視界が狭い。ふと肩越しに目が合う女性がいたけれど、男性の背中側になるから彼は何も気づいていない。そもそも仮想の存在だから気づくという概念もきっとない。女性は白地にレトロな花柄の、過度にミニ丈のワンピースを着ていた。ワンピースというよりもオーバーサイズのトップスという方が正確、丈が下腹部までしかなくて、加えて彼女は下着を穿いていなかった。アンダーヘアが見えている。女性はわたしを無表情に見つめていた。傘をさしたままその内側で抱き締められているわたしと、傘の外の世界の女性。何がどうでもあんまり関係ないと思った、ただ立っている周りに配置された世界がそうだっただけのこと。傘も眼も閉じず、一切が過ぎ去るのをじりじりした呼吸で待つ。車庫の向こうさえ雨は降っていない、と遅れて気づいた。

 

ぞうさんぞうさん、おうたがうまいのね。

そうよ、れんしうしたもの。

れんしう?

持って生まれた声の良さだけでここまで来たんだけどね、そろそろ技術も必要かなって。

それならこれからもずっとうまいのね。

うん、そうあり続けてゆく。

 

ARぞうさん、おはようホログラム。にゃーってないてまるまった。欠伸にまみれたラブを回収して眠らずにいられるところをずっと眠っていたい。わたしの野生はやかましく光る、ホログラムではないからね。ARでもないから触れればなんらかの質感を与える。胸には星を、頭には頭痛を。甘ったるさで吐くのではなくて、甘ったるさを吐いて修羅を行って。だって満月だもの。息を吐き切って腹筋を締めて、自分の面倒くささを背負い直して姥捨て山の見学ツアーに参加する。