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「ピックは73ミリがいいな、ぺらぺらなのは飛んでっちゃうし、分厚いのは弦に負けちゃうし」って言いながら、君はエフ・サス・フォーをじゃらりする。
そういえばこの前買ったアルバムはこのコードからはじまるんだったっけ、でも上手にそのイントロが思い出せない。ああそうか、アルバムの後半ばかり聞いてるからか。

「ちょっと貸してよ」なんて奪ってみたまではいいけど、私はセーハができない。それはつまりコードが押さえられないということである、それじゃあなんにも弾けない。
いらいらして突き返すと、「丁寧に扱え」って怒られた。

「どんな立派なコンピュータなんかより、ギターってのは繊細なんだからさ」
「精密機器ではないけどね」
「ばっか、ギター職人て凄いんだぞ、ブリッジの角度ひとつひとつ超こだわっててさ」
「そりゃプロだし、ううん、まあよくわかんないけどさ、ギターのことは」

彼の話を聞き流しながら、私は指の運動を弾き流す。白黒が綺麗なアップライトピアノ
最近は湿度が高すぎていまひとつ音が飛んでゆかない。一刻もはやく除湿機を置かないと、楽器がいかれてしまうかもしれない、と少し焦る。

「今日は音が飛ばないね」
「へえ、ピアノもそうなんだ」
「あ、ギターもそうなの?」
「アコギは繊細なの」
「ピアノだって繊細よ」
「グランドピアノじゃないじゃん」
「アップライトだって充分繊細よ」

彼の音に重なるように、私もエフ・サス・フォーを弾く。

「ねえ、低音の調律がずれてるよ」
「ギターは調律じゃなくって、調弦っていうの」
「いいからチューニングしてよ」

なんだよと唇を尖らせる彼を無視する、「日本人なら日本語を使えよ」。でも返事はしない。だってどうせ気付かないでしょ、そんな真剣な目で太い弦をいじっているんだから。
ギターが恋人っていうなら私はそれでもいいけど、それなら私は君のなんなのかな。
そしてピアノが恋人っていうなら君は、私の、何?
ふふ、なあんだ、お互い様だね。

そのあとふたりで一緒に「禁じられた遊び」を弾いた。
とくりとくりと三拍子がせせらぐ。

「知ってる、禁じられた遊びって戦争のことなんだって」
「じゃあふたりで反戦運動中ってことになるのかしら」
「今、ひどく平和で穏やかな気分」
「そうね」
「なあお前さ、グランドピアノに憧れたりしないの?」
「そりゃあ、だって、いつかグランドピアノを買うのが夢だもん」
「確かにピアノって高いしな、場所も食うし」
「まだまだ先の話になりそうだなあ」

最後の一音を同時に弾き終えて、ふいに静かになる。どうして音楽が終わった瞬間ってこんなに哀しいのかなと思ってたら耳元で声がした。

「防音室がある家建ててさ、一緒に住もうか」

彼がピアノでドミソを押さえる。

「そ、それ、コードでいうとシーなんだよ」
「知ってるよ」

俯いた私を笑うようなシーコードの響きが、湿度の高い部屋に残っている。