しおみず

 

「半分に割った赤いリンゴのイビツな方」はわたしが貰うのだけれど、それでも綺麗に割れたほうを笑顔で受け取っておいて違うひとにプレゼントするのはやめてよって思う。わたしはあなたにあげたのだ、他の誰かになんてあげないでよ。

いちばんおいしいところはわたしの口には入らない。わたしのいちばんおいしいところは誰の口にも入らず腐っていってなかったことになる。ひどい腐臭。夏だから。桃を食べた、アメリカンチェリーも食べた。とびきりのかき氷も食べたし炒飯も焼肉も食べた。NumberGirlは解散するしSexyZoneは悲願の初ドームが決まった。初の夏フェスをキメた、明日の今頃には海沿いにいる。

 

願われている、わたしがここで得点しないときっと世界中が暗く深く淀んで落ち込んだままになる。世界が願っているのがよくわかる。肌がびりびりひりついてる、喉に何かが貼りついて痛いけど、さっきのど飴を買い足したからもう大丈夫。言葉でも胃液でもさっき食べたものでもなんでも吐き出して喉を傷めることだけがわたしのできること。ここには何もなくて、わたしの手の内には何もなくて、細胞中が捻って絞って溢しているだけ、無から有を生み出す手品みたいな顔だけしている。高貴に鼻筋。数ヶ月ぶりにも思える食欲と同時に肌がびっしり荒れて、きっと月経前なのだと思った。暑さと運動で壊れた身体に何もかもが過剰に表示される。のど飴と一緒に化粧水も買った。夜。

 

 

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九夏儀

 

言葉の動脈が見える、切ったらたくさんの血が流れる部分を撫でる。
見えますか、肺に溜まる切実は吸っても吐いても出ていかない。胸に留めておくの。
極彩色は最後にぶちかますのが鮮やかだし、そのフラッシュで目を潰してしまいたい。
衝迫、ああ溶解。

見えたから、血の巡りがぐらぐらしてる。吐きかけられた赤い星はぬらぬら燃えて舞台にあがる。
誰にもできないことだけをし続ける、わたしは誰かではなくわたしだから。

ただ切実であることだけ、身体のどこを切られても気づかないほど指を強く組んで。

 

 

19335歩


虚像ではなくて鏡像、鏡です。
どういうことなのと叩かれて割れてみれば、ひっそりと無限の虚空がみちていました。きらきらと鏡が降ります。それだけのことです。外には何の秘密もないのでした。あなたの手は血塗れで、そのひと本当はいなかった、誰の夢なのってドロシーのクエスチョンに返すアンサーは光の鱗。
忘れていたことを思い出した、というよりは肉より当然のことだから意識になかった。わたしはどこにいるかって、強いて言うなら叩き割ったそれ、それがわたしです。そして砕けたのは映っていたあなただった。床に散らばるわたしは苦しむあなたを映している、あるいは映しているから苦しいの?
眼を閉じても探し続けてしまう、そうして言葉の意味をようやく理解する。神経を束ねて耳にかけて重たさを感じながら顔の上半分に詰まった筋肉を総動員させて見るだけ。映す、光の反射、鏡面を往復する光。光速で移動している光、白日の下に連れ出したら輪郭が曖昧になる? いいえ、もっと強力に眩しい光でしょ。

四ツ谷で降りて、麹町、市ヶ谷、九段下、神保町、御茶ノ水秋葉原御徒町、上野まで歩いた。といっても言うほど長い距離じゃない。靖国通りにひとが多いと思ったら千鳥ヶ淵で灯篭流しとのこと。そんなイベントをやっていたのは初めて知った。上野では不忍池へ、とはいえ夜だと蓮も開いてない。不忍池は好きだけれど日中に行くことはまずないから咲いた蓮の写真なんてほとんど持ってない(少しはあるということ)。

 

暑い中買い物行って、こんにゃく麺と玉子豆腐とゼリー買って帰ったらくったり疲れてしまって、そのまま夜まで眠ってしまった。買ったばかりのゼリーを食べてまた眠った。鏡のことをずっと考えてる。見えているあなたの鏡に映るもの、像の歪み方まで。ノコギリみたいに鏡も折り曲げて音を出してびよびよ遊びたいな、シンセベース特集の雑誌を繰る。

 

裂くみ

 

なまぬるいことばっかぴーちくぱーちくってる暇あったら本読んで過ごそ、首を吊る以外の方法で背も伸ばそ。倫理も論理も手薄だがそれに巻き取られるような身体は持ってない、持てなかった、違うやり方でいけってこと。自分の内側が見える気がするもっと澄め。わたしは壊れてるしまともじゃない、尖っているほうが本当は自然なことだった、だからきっとこれからはもっと尖ってゆく。最後は鋭い自分に刺されて深い穴をブチ抜くことになるとして、そこが想像もできない虚だとして、それを恐れるくらいなら今ここで、具体的に言うと新宿紀伊國屋書店で、舌噛んで死んでやる。図書カードだけでなくQUOカードが使えること、つい数分前まで知らなかった。こういう豆知識を遺言にして。

鼠族shuzu

 

 

こんな夜に喉を割くための言葉を探してはイソジンごと飲み込んでいる。

今日は大した外出をしなかったからマスカラを塗らずアイシャドウと口紅だけで済ませた。使った3色のアイシャドウを片付けながら、思えばどれも紫に分類されるものだなと気づく。そもそもグレーだと思って買ったCLIOのWlid thingをアイホール全体に、目頭側のアクセントに青と紫のあわい、紫陽花のようなOSAJIのGyakusetsu。物足りなかったので限りなくピンク味の強いマジョリカマジョルカのトワイライトを二重幅に入れた。

とにかく最近左眼がひどく痛む。どこに傷がついてしまったのかわからないけれど洗顔を終えるたびしばらく片目で泣く羽目になっているから、そろそろ眼科に行ったほうがいいのかもしれない。
どうなっているのかと涙を流しながら瞼をめくって鏡を覗いたら亀裂のように血管が走っていてなんだかどきどきした。本当はこれは眼球ではなく有精卵で、ずっとずっと眼窩であたためてきたがついに孵化の瞬間を迎えているのならどれだけ素敵だろうか。そこで記憶は途切れて死んだ。

往路では持っていなかった本を3冊抱いて復路……って、欲しい本があったのを書きながらいま思い出した。思い出しちゃった。
あなたがそう囁かなくても、耳に唇を寄せさえしなくても、わたしはずるずると引きずってゆくからね。忘れてしまうよ、それだって忘れてしまうんだろうけれど、だから味わえるうちにたくさん味わって自分の身体にしてしまうんだよ。身体はわたしの所有物。いつか死んだら輪切りにしてね、虹色の年輪をお見せします。挟まる異物、カステラの皮に挟まってると嬉しいザラメみたいなものも全部お見せします。わたしが生きる身体のすべて、ここで生きるために用いた肉のありさま。

 

セブンイレブンでチューハイを無料でもらえるらしい、そういうくじのあたりを引いた。獅子座の季節に入っている、とびきり大粒の肉厚なアメリカンチェリーが届いたからそれを食べている。確か一昨年はウイスキーに漬けたはず、あとで確認してみよう。