ひみず/解放/すいか

 

うだる日々と畳の感触、だらしなく寝そべる退屈の最中、立ち上るという動詞には似つかわしくないほどに燦然と立ち上った。短い詩の映る液晶画面、ゴシック体。火であり水であった。白さに胸が焦げ、青さに夢中になる。火にしても水にしてもひとつ極まったときの色が青なのではないか。温度、純度、深度。とどのつまりわたしが愛しているものはそういった性質のものなのだ。それでいて赤を焼きつけて去る。叩きつけられる赤にきつく結ぶ指。約束のない次を祈っては奈落に立ち尽くしてきた。

 

その苛烈さをいつまで忘れられない
高潔さを貫く姿を美しく感じたのを申し訳なく思った、生きているから
自分がひどく汚れて見えて恥じ入る
肝要なのは純度であって猥雑に混じるものがあっては、生きているのに
いつまでも信じがたく美しいままだ

菱形に開かれ、大きく剥かれ、ぐいと寄せて息を吐く、肉体は有機物。

 

 

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新世界について考えていたら古い会話を突然思い出したが内容は伏せる。
今ここに具体的には書かないというだけで、あらゆるところに流れ込む。

なぜならそれは意識に上げるまでもないもの、既にわたくしの一部になっている血肉のうちであり、であるならばわたくしの顕在化する総ての場面に少しずつうっすら混ざってしまうのを取り除けやしないからだ。

 

ひとでなしにしか到底できなさそうなことを、このわたしが為してやる。ひととして、獣として。纏足で、四つ脚で。なんでもいい、刮目さえしなくていい、嘲笑ってもいい、あなたはこの戦場にいないのだ。それはなんて、

粘膜のてらりに

 

無害で平坦なにんげんの生活に慣れることなんて絶対にしないで、生々しく賭けて駆け続ける畜生の日々を送って。ここ以外で喉を枯らさないで、ここ以外で膝をついても何事もなかったふりをして。血を流して泣くのは痛いからじゃない、血が流れたことが悔しい身体、思想、繋がるように縺れるように。溶け合うまで生きるだけ、わからないひとは看過して。痛みも悔しみも消えないけれど皮膚だってなんだってターンオーバーして剥がれ落ちて、代謝して置き換わって、それでも痣に残る色。

どうにも痣が残りやすい体質だったので調べたことがあるのだけれど、「痣を作らないためには障害物にぶつからないことです」という助言を見てやけに白けた気分と痣のコントラスト。ひとなまをもっと惜しみなくぬらぬらさせて、あの眼球よりもっと鋭利に。夜の生ぬるさに惑わされない。

ズキズキを知っていて

 

ねえ、わたしはあなたに絶対勝ちたいんだよね。だってあなたのことが性懲りもなく好きだから。見つけてよ、負かすためのものは揃えようと思ってる。

あなたの作品のことが大好きだから、見つけたらわたしはすぐわかってしまうし好きになってしまうだろうな。
でも負けたくないから探すことサボってるわけじゃない。だけど、勝つつもりはすごくある。

大好きで大好きで大好きだよ。そしてわかるよ、もう一度でも何度でもあなたはわたしを好きになってしまうこと。見つけてしまったらあなたは負ける。見つけてしまったらわたしは負ける。それは甘えじゃない。何を好きでいるのかを考えたら当然のこと。

 

淋しくはないよ、闘っている限りわたしたちは離れることはない。「あなたは二度と孤独になれない」、そうあなたに伝えたかったけどさ、どうにもお互い様みたいだね。

あなたがわたしを忘れない限り、わたしは孤独になれない。ねえ、覚えてますか?

死者に梔子

 

ねえ、あなた緩やかに殺しているよ、と髪を乾かしそびれた女が指摘する。やっぱりそう思う?と首を傾げてから、でもそれちょっと違うんだよねと微笑んで返すのも女だ。少し眠っているだけで、そんな風に損なわれて見えるのならあなたは短絡的すぎると主張する。わたしのなかで万物がゆっくり肥えているのをきちんと見定めてよ。でもそれって腐敗とどう違うの、傷んだ髪に気の逸れた女は取り合わないまま会話は終わる。

 

 

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指が寒いよ、少し巡りが。身体がじくじくするけどどこにも熱がない。欠伸をするときに鼻先に集まる熱もすぐに解ける季節。湿度が安定しない、ここにいるときはかなりの確率で喉が痛い。もっとわたし好みの使い方をさせてよ、誰のための喉だと思う?

声が掠れて、もう。

切実さだけが部屋に積もって、何度も白く塗り直したキャンパスにだって厚みがあるだろうに空気が重たくて圧がさあ、息が入ってこない感じ。部屋の二酸化炭素濃度が日増しに上がってゆく、重たい頭がずっと白い。ドライアイス詰めてる脳だ。

 

 

新大阪を経由して和歌山へ。数時間滞在して大阪に戻って一泊。翌日は名古屋に半日、そして東京に帰りました。電光掲示板には「神様に捧げる詩をかいてください」と流れていて、たくさんの言葉がぐちゃぐちゃ書かれていた。そのぐちゃぐちゃの言葉の上に重ねて「今、見えているものが本当に全てですか?」と大きな字で書かれていた。わたしはここにいるのに。ここにいるから?

 

祈り遊ぶ水へ素朴な星が瞬くように感じることが好きなのに裸で行く噛みしめる手触りに成るために地下鉄まで目を閉じて水の音 息を吸う

 

商店街に行ったのは初めてだった、夜だから喫茶店らしい喫茶店には寄れなかったけれどおいしいご飯を食べられて嬉しかった。この一泊二日の間、食事らしい食事をとったのはこのときだけだった。軽食を少し買い食いする程度で駆け回っていたけれど、突然空腹を自覚したときには和歌山で買ったきり忘れていたひと粒250円くらいする梅干しに助けられた。久屋大通駅のホームで、有難い、有難いと言いながら食べました。大変スイート、即疲弊に染みわたるから面白い。身体ってかわいいね。

 

 

「星に成りたい」という言葉が思いがけず弱くて胸がぎゅっと。夏だし星だし情報だし宇宙だし。わたしはね、わたしはさあ、もっと強く戦うための脚と精神をちゃんと持つから、どうかそんな力なく両腕を落とさないで。星なのに。いいえ違う、わたしが君ではないということ。この胸では不足なのだ、でもわたしの胸には確かに星があって、星であって。わたし、星に成りたい。

しおみず

 

「半分に割った赤いリンゴのイビツな方」はわたしが貰うのだけれど、それでも綺麗に割れたほうを笑顔で受け取っておいて違うひとにプレゼントするのはやめてよって思う。わたしはあなたにあげたのだ、他の誰かになんてあげないでよ。

いちばんおいしいところはわたしの口には入らない。わたしのいちばんおいしいところは誰の口にも入らず腐っていってなかったことになる。ひどい腐臭。夏だから。桃を食べた、アメリカンチェリーも食べた。とびきりのかき氷も食べたし炒飯も焼肉も食べた。NumberGirlは解散するしSexyZoneは悲願の初ドームが決まった。初の夏フェスをキメた、明日の今頃には海沿いにいる。

 

願われている、わたしがここで得点しないときっと世界中が暗く深く淀んで落ち込んだままになる。世界が願っているのがよくわかる。肌がびりびりひりついてる、喉に何かが貼りついて痛いけど、さっきのど飴を買い足したからもう大丈夫。言葉でも胃液でもさっき食べたものでもなんでも吐き出して喉を傷めることだけがわたしのできること。ここには何もなくて、わたしの手の内には何もなくて、細胞中が捻って絞って溢しているだけ、無から有を生み出す手品みたいな顔だけしている。高貴に鼻筋。数ヶ月ぶりにも思える食欲と同時に肌がびっしり荒れて、きっと月経前なのだと思った。暑さと運動で壊れた身体に何もかもが過剰に表示される。のど飴と一緒に化粧水も買った。夜。

 

 

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