死者に梔子

 

ねえ、あなた緩やかに殺しているよ、と髪を乾かしそびれた女が指摘する。やっぱりそう思う?と首を傾げてから、でもそれちょっと違うんだよねと微笑んで返すのも女だ。少し眠っているだけで、そんな風に損なわれて見えるのならあなたは短絡的すぎると主張する。わたしのなかで万物がゆっくり肥えているのをきちんと見定めてよ。でもそれって腐敗とどう違うの、傷んだ髪に気の逸れた女は取り合わないまま会話は終わる。

 

 

:::

 

 

指が寒いよ、少し巡りが。身体がじくじくするけどどこにも熱がない。欠伸をするときに鼻先に集まる熱もすぐに解ける季節。湿度が安定しない、ここにいるときはかなりの確率で喉が痛い。もっとわたし好みの使い方をさせてよ、誰のための喉だと思う?

声が掠れて、もう。

切実さだけが部屋に積もって、何度も白く塗り直したキャンパスにだって厚みがあるだろうに空気が重たくて圧がさあ、息が入ってこない感じ。部屋の二酸化炭素濃度が日増しに上がってゆく、重たい頭がずっと白い。ドライアイス詰めてる脳だ。

 

 

新大阪を経由して和歌山へ。数時間滞在して大阪に戻って一泊。翌日は名古屋に半日、そして東京に帰りました。電光掲示板には「神様に捧げる詩をかいてください」と流れていて、たくさんの言葉がぐちゃぐちゃ書かれていた。そのぐちゃぐちゃの言葉の上に重ねて「今、見えているものが本当に全てですか?」と大きな字で書かれていた。わたしはここにいるのに。ここにいるから?

 

祈り遊ぶ水へ素朴な星が瞬くように感じることが好きなのに裸で行く噛みしめる手触りに成るために地下鉄まで目を閉じて水の音 息を吸う

 

商店街に行ったのは初めてだった、夜だから喫茶店らしい喫茶店には寄れなかったけれどおいしいご飯を食べられて嬉しかった。この一泊二日の間、食事らしい食事をとったのはこのときだけだった。軽食を少し買い食いする程度で駆け回っていたけれど、突然空腹を自覚したときには和歌山で買ったきり忘れていたひと粒250円くらいする梅干しに助けられた。久屋大通駅のホームで、有難い、有難いと言いながら食べました。大変スイート、即疲弊に染みわたるから面白い。身体ってかわいいね。

 

 

「星に成りたい」という言葉が思いがけず弱くて胸がぎゅっと。夏だし星だし情報だし宇宙だし。わたしはね、わたしはさあ、もっと強く戦うための脚と精神をちゃんと持つから、どうかそんな力なく両腕を落とさないで。星なのに。いいえ違う、わたしが君ではないということ。この胸では不足なのだ、でもわたしの胸には確かに星があって、星であって。わたし、星に成りたい。