震える脳を頭骨に容れて

 

これまで何度も眼球を180度回転させた深みで見た明滅を、通常通りの眼球のポジショニングで目の当たりにした。反転した鼓膜からこっちでは美しい光が流れている。その光を何度も聴いた、トマトに結線したカラフルなケーブル揺れる水。この世の総ては道具だからあとはどう変換するかって手腕が問われている。ぐるぐる飛んで跳ね回りたい、わたしは美しいものを知っている、この背骨を何度も通った。

深くまで臓腑に何度も染みたそれを思い出している。蓄えるために機能する臓器がないのが惜しいけれど、血液に溶け出して永遠に脳内を飛び回っているから愉快。抜けない、抜かせない、何度でもそこに行く。臓器に留め置いたらきっとそこから光が漏れ出して世界中の昼夜がぐちゃぐちゃになってしまう、何度も頭や感覚をおかしくして遊んだ。神経を伸び縮みさせる遊びはわたしのとっておきのお気に入りだから、いつもその瞬間にしか有り得ない残響で身体中を尖らせて集中している。

いまがずっと続くといいのに、いつも終わるから。でもまた始めればいいから、何度でも浸して毛細管現象で吸い上げては新しい色を通過させる。


集中すればするほど拡散・散逸してしまう。ひとつのものを深く見つめる、拡大して解像度を上げる、それを繰り返してゆくと情報が膨れ上がる。この感覚がずっとあって、ピントを合わさないようにと思っているけれど、遠くのラジオが入るかどうか確かめるような仕草でたまにチューニングしてみる。

例えば。
夕方、の駅周辺、ですれ違ったやけに薄い生地のワンピースを着た女性、の目元を彩るつけまつげ、が外れかかっていて糊にラメが付いている、し糊で剥がれて切れ切れになっているアイライン、の色は漆黒ではなくてバーガンディがかっている。

顕微鏡を覗くと収束しない、どんどん違うものが見えてきてしまって何を見ていたかも不明になる。一点を見つめれば見つめるほどブレて像から離れてゆくよね、という話。見つめること。なにを道具にしてなにで遊ぶ?
触覚ひとつでどこまでもおかしくなれるねじれた神経を持っていて、このねじれのひとつひとつの隙間に宿るディティールを、意識したら気の触れてしまいそうなものを、いつまでも抱き締めて身悶えしていたい。

筋書きやストーリーも大切だけれどそこで呼吸していることがとても大事、仕草のひとつひとつに、微に入り細に入りそこに人格が滲むから、その仕草を眼差すのはやっぱりひとだから。目撃してしまったら始まってしまう、感じ取ってしまう。眼差しの数だけディティールは立ちのぼる。

あなたの横顔を思い出すとき、わたしはあなたのことが好きなんだなと思う。こっちを向いていないあなたを眼差しているわたしも現れて、そうだね、そうだね。

 

見かけた瞬間、DEMETERの香水の話だ!と思ったけれど調べてないし違うかもしれない。見つかってしまった、と見かけた側のくせに思った。雨の香水を持っています。どうしても欲しくてたまらなかった、いつも雨の匂いがするにんげんになりたくて。

 

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ワンタッチで魅力のドット肌

 

起きたら頭に穴が空いていてそこにトツトツトツトツ落ちる水滴が脳の一部を地道に冷やしていたから泣きながら起きた。
そこにわたしはいない、いつもいない、すっぽり抜け落ちている。嫌。自分のかけらを分散させている、自分はもっと薄くできる。そうやってそうやって、限りなく薄めたら。
なんだって一瞬で風化する。この心音を聞いてくれ、二度と同じ瞬間なんて有り得ない物理で挨拶もなしにだくだく鳴っている。

 

ずっとを顕現する力が互いの中のあるって互いにちゃんとわかっている。できないなんて思ってない、まだしてないだけ。できないことなんてそう多くはないはずで、なんだって息を止めて、深く潜って。

次に会うときは何しよう、どんなことしよう。ずっとそんなことを考えている、わたしはきっと今より身長が20cmくらい伸びてクワトリンガルで小指と薬指がばらばらに動いて引っかき傷も全部消えている。もっと無敵で素敵で不敵になれるし、潰れたネジ穴さえ直せる。非常にファンタスティック!

 

駅前を歩いていたら目の前を通り過ぎる制服の女学生が模造紙を束ねて巻いてあるものを7ロールくらい落としていた、入れていた紙袋が破れてしまっていて、どうしよう、と呟いていた。抱えた模造紙ロールは想像より重たかった。見えた図書館には人手が戻ってきたように見えて、というのはつまり座席数がいくらか多めに開放されたってことだろうか。

煙草にすだちをかけてさっぱりと夏風味にダメにして頂きましょう。全部壊れてるけどわたしには驚異のバランス感覚で裸に毛布を巻きつけ酔わずに眠ることができる。楽しみに買い揃えてきた春物を総て腐らせた。大人の目を盗んでキスをした、かぶれてる。

 

今日の発見:「ぽい」だと思ってたけどもしかして「boy」かもしれない、たぶんそう。

 

危険度は純度の高さに比例する


一昨年くらいまでセブンイレブンに並んでた「ゆずれあちーず」みたいな名前のゼリーカップ入りのデザートが好きだったんだけど今年も見ないからコンビニスイーツを好きになるの嫌。「ミルクたっぷりとろりんシュー」は好きだったけど、随分前に新しくされてそこから先のシュークリームは特に興味ない。

 

自分の怖い部分はわたしだけが知っていればよい、ビタースイート、いつも自分だけが壊れてしまえばいいのに。抱え込んだ傷に塩も色も塗り込むつもりはない。迷惑をかけることが怖い、その望みを口にするまでだって半年以上がかかったし、結局叶ったとは言い難かった。さみしいね。願望は口にしてはいけない、叶わないと哀しくなるから。感情もしかりだ、無下にされると痛いから。

言えない願望や感情ばかりが身体の中に折り重なって傷んでゆく、生まれることさえできなかった墓場直通の牢獄、腐らないように掻き混ぜ続けてどうにかしている。吐けたらいいのに。喉に指を突き立てて、そうだ内側と外側がひっくり返ればいいのかと思い立って自分に乱暴をしたくなる。自分を犯し続けるだけの媒体としての自分が欲しい、ただ酷いことをしたい。最後には内臓を開いて成り代わってあげたい、せめて臓器の色が綺麗だといい。もっとぬるい体液で部屋中を汚して欲しい。公衆トイレにスケルトンブルーのプラスティックの何かを投げて帰る。

 

せめて自分は誠実でいなくては何も信じられなくなってしまいそうだ。自分の未来を狭めても誠実でありたい、怖いなあ、でもちゃんとやらなくちゃ。置いていかないよと笑ってくれたひとはいないのだから自分でもっと走る必要がある。

「Tank!」を聴きながら雨の隙間の夜を歩く、左耳の辺りで鳴っている弦を弾く金属音が好き。

 

xxだから見失わずにいられるの

 

鏡を覗き込んで不慣れな配置や配色で顔に美術をして遊んだ。赤を中心に塗り拡げる。頬に色を置いたのなんていつぶりだったかわからない。塗るだけ塗って落として寝た、落としきれなかったラメをきっと瞼に置いて寝た。

スーパーに入ってすぐのところにプラムと桃が並んでいてはにかんだけれどスルーしてこんにゃく麺をふた袋買い足した。ようやく梅雨入りしそうな雰囲気のマークが並んでいる。チワワと柴犬の雑種であろう犬とすれ違う。身体のかたちがチワワ、耳と鼻と尻尾が柴犬。そういえば昨日は紀州犬あたりの体つきで背中と顔が薄ぼんやりとシベリアンハスキーなカラーリングの犬を見た。

 

アリスが誰のことだかわからない、練り物ばかりを腹に落とす、漫画一冊分の隙間(何が入っていたっけ?)、ペンギン柄のタンブラー、お気に入りの隠語、疲れたから休みたいと言った、言われた、寝ている間に服を脱がされて、相互に意地を張り合って恰好良くあろうとするからあなた方は交わらない。

いま手元に黒いリキッドアイライナーがないことに気づいて少し驚いた。さんずいを潰してもっとしたたかに根を張って。病院の予約同じ日じゃん。美容院の予約も入れた、全部違うため。次はどうしようかな、ひと思いに短くしてやろうかとも思うけれど、でも。またピアスのキャッチを落とした。

 

もっと花が見たい、泣きたいとか泣きたくないとかじゃない、威嚇してるのに不用意に触ってくるひとは苦手。汗を吸わないスカートを履いていたから太腿に汗疹がたくさんできていて、見せる予定がなくてよかったと思った。嘘をついたことがないにんげんも乱暴をしたことがないにんげんもきっといない。総てにおいて至らない。

誰も彼もの頭上にミラーボールもしくは月。ずっとミラーボールに記憶撫でられて過ごしてたい。あなたの与えた致命傷のひとつひとつに命名する。もっとことはシンプルなはずだ、煩雑さはわたしに似合わないしあなたにも似合わない。模倣がいちばんうまいサインなんだって。

ピノのピスタチオは想像以上に美味しかった。

世界の果てには君たちと全部忘れてしまう

 

薔薇を見に行こうと思いたくさん植えてあると聞いた公園に行ったけれど、既にほとんどがしおれていた。もう6月半ばだし、晴れも続いているし。品種名と簡単な特徴を伝えるプレートがたくさん刺してあって、くちゅっと茶色くなっている花がどんな色だったのかを想像して遊んだ。よく晴れていたため暑くて、自販機でカルピスを買ってすぐ木陰のベンチに逃げた。カルピスを買ってから隣に三ツ矢サイダーがあったことに気づいてちょっと悔しい思いをした。

木陰では小さい子どもを連れてピクニックをしている家族らしい4人と、小さなテントを張っているひとと、バトミントンをする男女がいて、水場では小さな岩の上にびっしり並んだ亀が日向ぼっこをしていて、鯉は軒並み黒くぬらぬらしていて、わたしは自分の身体だけがそこにあるような気分になっていて、切るのを忘れた足の爪を思った、「思った」くらいだから身体以外もそこにあったのだろうとも。でも脳も身体の一部ですから。

 

ひとことで言えば審判の逆位置というところ。総てを白紙に戻して、美しく再開できると思ったのだ。もらった名前をただ抱き締めたかった。輪廻転生させるなんて人知を超えた遊びみたいで劇場版ドラえもんっぽくて素敵だったね。だけど残念、ここは不毛の土地。植え方もわからない、ただ美しくありたかった。


「ああ、もうあたしの一生は幸せばっかりしかないのだ」

世界が終わる中で精一杯恋をする男女の漫画を読んで過ごす。わたしには好きなひとがいる。そのひとは見えないところにいる。会えないところにいる。一人一途という曲が好き。

ベッドシーツをそろそろ夏物に替えようかしら、梅雨らしい梅雨が来ないせいで思ったよりも寒くない日々。もう6月も折り返し。カードを切る仕草だけが少しずつうまくなってゆく。それでもカードはしょっちゅうジャンプするから何か言いたいことがあるのかと耳をそばだてる。シーツがただぬるい。好きな漫画はと聞かれてうまく答えられない。わたしの話を聞いているふりをしているのを知っていて道化をし続ける、わたしはあなたの名前を知っているけれどあなたはわたしの名前を知らない。

 

 

即物的なにんげんでごめんなさい。シャトレーゼの中でやっぱりラーメン食べようかって笑いかける。器用さがない、断絶していてうまく連続しない。明日世界が終わるってわかったらわたしは何をしよう。お気に入りの歌集を持ち歩きたくて電子書籍で買ったけれど全然読む気になれなかった。精神も肉体も嫌だ、言葉も物質も、情熱も感情も。もっとひとりで完結してひとりで閉じてしまいたい。深く結んで海に放り投げられたい。誰にも何も言わずに、全部抱えてその抱えた全部ぜんぶを本当にしたい。

 

忘れたふりして全然傷つき続けている、傷ついたことを叱られたってどうしようもない、第一傷ついている自分に苛立っているのはわたしだって同じだ。

20代に入ってもしばらく、口紅を塗ることが出来ないでいた。わたしの唇は太いから、色を塗って目立たせるのは怖かった。必要なときは諦めたように肌色に近いやわらかい色を選んでいた、顔を汚しているだけだなと思った(今思うとちっとも似合ってない色だから仕方ない)。
あるときキツい赤を選んだら妙に自分が堂々として見えた(その色が似合いの色だと知るのは数年後、パーソナルカラー診断を受けたとき)。それからようやく口紅を塗ることが怖くなくなった。

「キスしたい」と言った相手に会う日、会う前に紅を引きながら何度も深呼吸をして緊張を誤魔化した。唇の中央に置いた紅を指で塗り拡げて着彩した、そのとき使った指がどれかはここに記すまでもない。