cider

 

「決断する」という意味の動詞decideがあるけれど、このcideはsuicideやgenocideのcideと同じで殺すという意味を帯びているらしい。
つまり、何かを決める・選択するということは、その他の選択肢を殺すということと同義なのだと、英語教師が口にした話をまだ覚えている。

「どちらを取る?」
「君」

既に悩む時間は最大限まで縮小されていて、だからあとは態度の問題なのだとわかる。引き金に指をかけてから撃ち込むまでにかかる時間、決めたあとに断つまでの時間。
少しの呼吸と筋肉の乱れで簡単に手元は狂うだろうから正確に、落ち着いて、決めたなら迷わないこと。経験と訓練の領域な気がする。なら場数を、綺麗なフォームで。

本当言うと共生する手立てもあるんじゃないかって全く思わなかったとはいえない。
でも、そういう選択肢が出現する可能性がもしあるとして、それだって決めて断って決めて断っての先に立ち上るかどうかという話なんだろうとわかった。だったらやっぱり戸惑ってはいけないのだ。

そんなわけだから、どんな恨みもないけど銃口を向けるよ。撃ちたくないものが他にあるんだ、悪いね、そこの選択に迷いがなくて申し訳ないことだよ。
銃口に花を挿して回る側でいようと思うのだけれど、それ以上に唇に歌を絶やしたくないと思ってしまった。ねえ、この唇を彩る歌がお前にも?

どうしたって迷いようがない。銃口はお前に、そして花はあなたが頬杖をつく机の一輪挿しに。
頬杖に飽きたら一輪挿し持ってこっちにおいで、食事にしよう。それで食べ終わったら歌をうたおうよ、そんなふうにずっと唇を忙しなく使って、一対しかないくせに欲しい口紅がまた増えた。素敵な色を選ぶから褒めてよ。

死者にくちなし。もうなにも決断できない死者に背を向けて、あなたには甘い選択肢を差し出す。
眺めるなら何番の色がいい? じゃあ舐めるなら何番?
お前の眉間に空いた穴にはちゃんと違う花を挿しておくからね、わたしはそこで一貫している。それを墓標におやすみなさい。