幸福基礎工事(地中障害あり)

新宿×8hours×2days / week(before)!

どちらにしたって瞼に月霞。

 

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「毒だと思った、良くする毒って感じ」
「じゃあそれは薬っていうんだよ」
「なるほど、病気だってことに気づいてないから毒だと、思った?」
「状態異常に気づかないという状態異常が、なおった?」
「なるほど」
「なるほど」
「……なにこれ、抽象的な会話」
「うん、不透明な会話」
「よいよね」
「よいよね」

 

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「爪、何塗ってるの」
「シャネルの上にダイソー重ねた」

 

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ノンアルコールチューハイ5本とほろよい1本をそれぞれ注いだプラコップ6つを並べて、アイマスクをしながらキャッキャと飲み比べ遊びをしてじゃれていたら、自分が海だったことを思い出した。くたくたになった身体を横たえて帰宅して眠って、絡みついているものは特別解かなかった。そんなことをしなくたって少しずつ緩まってしまうことを知っている。

 

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お昼前に集まってパンケーキを食べてうろついてケーキを食べてうろついて別れた。色違いの靴の底はぺなぺなで、歩いていて足が痛くなってしまった。あんなのは思春期の頃に買ったローテクのコンバースぶりだと管を巻く。

 

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電車に乗り各駅を回ることで謎解きをするタイプの鉄道主催の企画に参加した、ただしどこにも行かずに勘と予想で解いている、と話しているものだからこのひと何を言っているんだろうと思った。

 

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この夏は居心地が悪い、なんというかあまり空が高くないせいだと思う。積乱雲をほとんど見ていないことに落ち込みそうになっている。
わたしは今日に至るまで身体をこわばらせて立ち竦み、立ち竦んでいることに恐れをなして未明まで泣く。

 

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「お酒断てるの」
「あなたは勘違いしている、元より断つ気などない」
「そんな大それた話でなく、3日断てるのかも疑わしい」
「断つっていうか、ちょっとやめてみるだけ」
「それを断つっていうんだと思うけれど」

曖昧な感情は、そもそも感情は曖昧で移ろう性質も有しているから特に気にしないが、曖昧な存在というのは存在しているのかいないのか、つまりいるのかいないのかが曖昧ということだから、そこは確固としていて欲しいんだけれど、とお願いしたという話。

 

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そして本日は新宿×6.5hours。
「ねえいま暇?これ行かない?」と送られてきた1時間をさっぱりと承諾。泡の立つお酒を飲むという用事を、昨日入った用事の前に捩じ込む。
その後、女性とケーキを食べた。わたしはカシスのムースを、彼女はショコラを。論と情の話をし、彼女の誕生日祝いを買い、パスタを食べ、論と情の話をし、別れた。オレンジのチーク。麻のシャツが似合うねと彼女は言った。

「自分が相手を好きかどうかなんて興味がない話だ、自分の感情に興味がない。相手の好意/行為にしか興味がない、それでしか火がつかない」
「彼は言うんだ、あなたの感情は自分の感情に関係がない、って」

正しくありたいよねと思うけれど、正しさはひとによって違うのだという話。

 

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帰宅して何気なくSNSを開いたら、もう何年も連絡をとっていないひとの「本日子どもが生まれました」と写真の添られた投稿があった。わりと最近離婚と再婚をしていたが、それも子どもが欲しいという理由だったのだと、彼と昔付き合っていた女性に先日聞いた。
数年ぶりに見た彼の顔は和らいでいて、きっと彼はわたしのことを忘れただろうし、君はわたしのことなんて睡眠薬を分けてくれる相手くらいにしか思っていなかったと思うけれど、嬉しかったよ。おめでとう。

 

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小振りのVAPEを買って香りを延々吐いている。喫煙者でもないくせに、どうにも煙が好きなのだ。輪っかを作って遊んでいる。

 

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「相手の中にいる自分って面白いよね、それってつまり相手じゃない。でも100%相手とも言えない、ほんの1%でも自分がいたりする、そうである以上自分でもあると言える。少しは自分である以上、それを見せてという権利があると思う、だから好きなひとに会いたいって思うし、好きなひとのなかの自分にも会いたいって思うよ」

 

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規則正しく剥落する膨張した内臓を見送って、ぼうやりした痛みに近い重たさや抗えない眠気を抱えながら、どうして身軽になるために身体をだるくさせなくてはならないのかな、と思っている。本当に規則正しい身体の秩序。自分の真面目さや正しさへの執着が滲むみたいで、安定して強迫的でちょっと怖いな、と思う。

 

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もう8月も終わるって気づいた。わたしは大丈夫だ、と何度も何度も繰り返し呟いて、あとは肩を抱いて眠るだけ。

 

寂寥感のある曲だけど「海水浴」というからにはやっぱり夏の曲なんだろう、曲も歌詞もPVもとても好き。切なくて堪らない、堪らないよ。

 

「 ねぇもう少し 顔寄せてよ  大好きなんだ 君のことが」