2階と4弦

今年もこの季節が来て、まんまと君を思い出します。生きているとは思っていないけれど死んでいるとも決まってない。顕界と幽界とあいだでぐにぐにと引っ張りあっては、長らく解約できないでいたウィルコムのことを思います。

この世界が若者に不都合なふうにできているのは、若者が選挙に行かないからなんだそうです。それなら消息不明の君よりも、今日もここに立っているわたしに都合よくわたしの世界は回るはずです。それが忘却の仕組みなのだとしたら、いま吸った息を吐き出すべきなのかどうかいささか悩みます。
変質した記憶を置いて、君の実像なんてもうわからないのに、これを大切にあたためることに意味があるはずがない。意味なんてあって欲しくない。

いまでも、難波のライブハウスから君の恋人がウィルコムを繋いでくれて、君の演奏を聴きながら眠ったことを思い出します。あんな夕方に眠ることなど滅多になかったのにね、大事なときにわたしはいつも眠っている。いつだって、いまだって、眠ることは怖いです。

君がわたしのことを「みやこさん」と呼んでいたことは、たぶんどこにも書き留めていなかった気がする。わたしたちは何でも忘れてしまう、揃いも揃って君の誕生日さえ思い出せないから、でもこれって時間が不可逆なせいだからね、脳の仕組みだからね、わたしたちに都合よく世界ができてるからだからね。誰のせいでも、ないからね。

何ひとつ君のせいにさせてあげない、これはわたしのものだから。

 

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200923追記:やっぱりここに書きつけるしかないと思ったのだ、だってここしかないのだもの。