繊維ひとつ残さず燃えてしまいたい


朝から警察署。知らない男に身体を不審に撫でられていたので署。駅員を呼ぶことだけはしないでという男とわたしが話す様子を見た駅員さんが声を掛けてくれたところで、男は物凄い勢いで走って離れたところにある階段を駆け上がっていった。まるで動けなかった。そいつ捕まえて!と言いながら駅員さんが追う。複数人がかりで抑え込んで尚暴れていたらしく、応援呼んで!と叫ぶ声を聞いていたが、その階段を上る気にはなれなくて階段のふもと、ホームの上で立っていた。
男はわたしより10cmほど背が高かったが若くはなかった、それでもあんな風に力いっぱい走れてしまうことが怖かった。本気でもみ合ったら勝てるわけもない。悔しい。


誰もわたしの身体に触って欲しくない、と心の底から思っているものね。哀しくて仕方がない。そんなに珍しい話じゃないけれど、とにかくわたしの身体に触れてんじゃねえよ、クソが。触っていいのは、触っていいのは、        。悔しい、哀しい、やめてくれよほんとうに、もう。

今後衣服から繊維を取る可能性があるから今日着ている服はしばらく洗わずにおいてねとのこと。できれば相手の手を掴んで離さずにいるのがいちばん望ましいとのこと。わかるけど気持ち悪いじゃん。どうしてだよ、なんでなんだよ、わたしのことはそっとしておいてくれ、頼むから優しくしておくれよ。
せめて、       、とは、言えないよな。


毎日さ、一応「それでも今日は楽しくやろうじゃん」って何回かは思ってみているんだけど、それさえも連日端から丁寧に砕かれる心地がしてすっかり疲れてしまった。もう何もしたくない、ただ布団のなかにいたい、もうずるずる滑って踏ん張りがきかない。

ゆうに午後、ようやく出社してみたら「はっは、朝から災難だったねえ」という朗らかな態度で笑いかけられてふざけんなよと言いたかった、なんでお前ら笑いかけてくるんだよ、理由がわからない、どこに笑う理由があったんだよ、っていうかどうしてわたしも笑顔で応じてるんだよ、クソが。ああもうクソが。

 

 

不審に触られているとわかってからはイヤホンを耳から引き抜いた。音楽に罪を着せないで、お願いだよ、苛まないで欲しいんだ。わたしがどんなに罪深くても一度許して欲しいって、誰に許しを乞うているというんだろうね、変だね。

何種類かの書類に何度か人差し指で印を捺した。これで拭いてと渡されたティッシュにはアナと雪の女王のプリント。