さぼてんもどき

 

「私のために埋め立てまでしたくせに、雨が降ってるのだけ詰めが甘くて納得がいかない」と、世界の真ん中を歩きながら君は言った、「でもきっと何か意味があるはずなんだ、私のために起きてる事象なんだから」。雨づく平日、閑散とした台場での話。

 


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「台場の闇を探す」という提案につられて台場駅で下車したけれど実際のところ何も決まっていなくて、改札のなかでチケットを取る。その間に地図を一枚抜き取って眺めていた君に「もうひと駅、最寄りまで乗っていく?」とホームへの階段を指さしたら、傘も持っていないくせに「歩いて行こう」と言った。
駅を出たら、だだっ広い埋め立て地がほとんど無人で、「かん、ぺき、だ!」と君は言う。ラーメンズの引用であることを指摘して、へらへら笑いながらずるずる歩き始める。桶屋がボーカルなのだ。
フジテレビ、ダイバーシティガンダム像を見て(「ユニコーンガンダムだ」「知ってるの?」「え、ユニコーンじゃん」)、シンボルプロムナード公園のなかを抜けてゆく。ぎりぎり降っていない雨。車道を走る車もまばらなら歩くひともいないから、マスクを外して肺に涼しい空気を垂らし込みながら歩く。身体がフェンスにぶつかるまで逃げたけど、東京国際交流館の国旗は全然わからない。フード付きのパーカーというものをファッション誌で確かに見たと教えてあげた。

作りものの眼球にはTHE DOGみたいに鼻先が強調された自分が映る。わたしの10秒はあまり正確ではない。わけもわからずブースに押し込まれて電話の受話器のようなものを握らされる。ねえ白いのは、誰も見ていなくとも、二足歩行をするの?
球体の横をぐるりと囲む緩やかな階段をのぼりながら、走る幼い男の子に「転ぶよ」と声を掛けるようにして言ったくせに、2回目に同じ場所を通るときには言った君が小走りしていた。その後ろ姿を確かに見た。

建物を出たらざあざあ降りになっていた。奇跡的にわたしの鞄に入っていた折り畳み傘を持ってくれる(わたしは普段傘を持ち歩く趣味はない)。
どこまで行ってもひとが疎ら。平日のランチ価格で食べたいものを食べるのなんていつぶりだろう、と思いながら課金を惜しむべきではない好物を食む。雑貨見てガチャガチャ物色して撒かれて回収されて了。リードいる?いる。えっ!?

変に派手なアーチはリバーシブル。ローソン、プレミアムロールケーキと三ツ谷サイダー、軽減税率問題(不問)、ファミマの向かい。薄い砂浜、波打ち際に落下するiPhone、自分に向かって払う砂は湿っていて、「鳥って海水とか淡水とかその辺どうなんだろう」。
フラッシュを向けられる瞬間の視界が光で飛ぶみたいにその瞬間だけ思い出せない。3本の白いラインが尾ひれのように引っかかっているから、弦にして爪弾いたカノンコードが嘘だろってくらい懐っこい。サイゼ、ジョナサン、サイゼ、ジョナサン、笑笑、家、家。
「ほらきのこあった、食べなよ」「これ、きのこじゃないよ……」「すごく犬みたいな仕草!」

 


狂ったように白い画面に文字を並べていく作業ばかりに専念していてこんなのひとつもあなたの役には立たないけれどわたしの気持ちは幾分か和らぐというものだよ、自分でも実に冗長な喋り方をしていると思う、わたし、他を、知らないから。
多弁の時期はそうせずにいられなくなる。以前、筆箱を漁っていた際に発掘した遥か昔に使っていた安物のシャープペンシルで雑な紙に適当にでたらめを書きつけてゆくのだけれど、ふと思い立って調べてみたらこれってとっくに廃盤みたい、200円くらいで買ったこれ。紙の切れ端に並べる甘い言葉。ああ、楽しかった。

 

 

201025追記:
でもそうやって今日もここで生きていて、わたしは。