習作

 

薄いまぶたを絹糸で縫い合わせてゆく行為に腐心している。あの日頬に当たったまつげがゆっくりと上下した瞬間、擦過傷を作っていったことを理解した。みみず腫れがひどくこそばゆくて、つい触れてしまうからいつまでも治らない。君の豊頰は何もしなくても赤いから、傷をつけたくらいでちょうど同じ色味になるね。肉の内側にもっと踏み入って欲しい、血の巡り、いのちの在り処にまで君の指だけは届いてしまうから僕たちの夏の水はずっと、清潔に澄んだ炭酸水だった。君のまぶたは蝶の羽根で、蝶の羽根たちは誰かのまぶた。またたいて、まばたいて、フラッシュ・フラッシュバック! お願い見て、二度と見ないで。絶対に触れないで、後戻りできないくらい侵して。君のまぶたが切り取る僕の有り様と、僕の縫い合わせたまぶたが切り取ってきた世界の有り様。まばたきでつけてきた傷同士でだけは通じ合うことができるって聞いたんだ、本当だよ、そう囁いて君の頬にまつげを押し当てる。脳が甘く痺れ始める瞬間、ふやけ始める輪郭の有り様を切り取った蝶の羽をもいで、壊さないように両手でくるんだ。