「べきもな」の母音は不一致

 

自分の持つ・持ちたい雰囲気を言語化した上で非言語的なものに変換したいと考えた。つまり香水が欲しいという願望について。

自分の身体についてはわたしよりも他者のほうが知っている気がする、もっとも冷静に見られないものが自分の持つ肉体であると感じるため。背が高いとか胸が小さいとか数値として知っているだけで、固有に持つテクスチャについては何もわからない。

 

クリームやアボカドに例えられた、水を含み切って零すまいとしている様子。それなら熟した果実なんかもそうだろうか、覚えたてのフレグランス用語で話をするなら、きっとパウダリー系のイメージではないのだろう。わからないから見よう見まねでそれっぽい用語を並べた。スパイシーとかオリエンタルとかがそれっぽいかと思うんですけど、それってどんな匂いですか。アンバーとかもいいかも、あとお香が好きです。いくつか見繕ってもらっては、ウッディーもよさそうです、でもくしゃみが止まらなくなる匂いがあるけどそれがなんだかわからないんです。ムスクを嗅ぎ分けられるのは5人に1人と言われているらしい、それじゃないですか、ホワイトムスクは確かにくすぐったい。スモーキーなのはどうですか、レザーは?お酒系も試してみましょう。 たばこ、たばこのにおいが最後に残るんですか。ローズもいいですね、好きかも。フローラルではないですね、マリンも違う。なんだか奥のある感じがいいんです、でも甘ったるくないのがよくて、甘ったるい女の子みたいなのってきっと似合わないので。

 

あ、これくらいのものが好きです。そう言ったものは、どうやら甘い香りに入るものものらしい。しかも相当甘いらしい。これかなり甘いですよと言われたものがちょうどよかった、もうだめです、わたしの身体はあまったるい。
噎せ返るような、でも引きずり込まれるような匂いがいいと思った。底が知れないような、覗き込みたくなるような。どうやらわたしにとってのそれは甘さらしい。毒々しくて香りの強い密林の花のように、どろりとしたグロテスクなルックスから放たれる甘さ。自分にとっての色っぽさとは何か、自分のイメージとは、そんなことを考えて香水を噴きつけてもらった手首にそっと鼻を寄せる。

 

夏には向かないですねと言われた。関係ないですけどねと咲いてみせた。