フロアという奈落から


下卑た退屈さだけが眼前にあり、それらに立ち向かうことはナンセンスだと知っていた。いつも目を伏せて端末へ、どこにも行けずどこにでもいた。焦がれるほど遠くにあるものがいちばん近くから流れ込む。そういう類いの、音楽。

虹色の上に鱗片状の光を散らす。今夜こそ回るミラーボールがもたらす恍惚、希死念慮を浮かび上がらせては砕いていった。

「死ぬなら、いまがいい」

指は組まずに行われる祈り、軽やかに跳ねれば髪の煩わしい。その苛立ちで存在を再び確かめたら、総てがまた鮮やかに揺れた。もしかしたら揺れたのは自分だけで、地に足ついたものが舞台にはあって、だから留めつけられるようにここにいるのかもしれない。

「いまなら、不能になっても」

膝から崩れ落ちる心地がしたのに、まだ跳ねていた。跳ねていたいから不能になりたくはないなと思い直す。

虹色が消え、回転が止んだ。もうすぐ終わる。

つんざくような轟音、掻き消えそうな声が間を縫うようにして聴こえた。
声は掻き消えない。声は、掻き消えないのだ。
これだけのことが重大なことに思えて忘れないように呟く。従順な音楽に合わさる声は、さながら色のついたコードを束ねたような感でよく馴染んで届き、刺さった。

「また、会いましょう」