そぞろぞめき


忘れられないのはいつも息を詰めている姿。じりじりと舌の上で転がしている熱、口腔内で膨張した空気を静かに肺に落としてゆく。静かな仕草だ、と思った。身体や意識の隅々までうるさいはずなのに、その瞬間は空気ごと黙りかえって水中のように緊張している。押し殺した眼の奥にむずがっているひとがいて、煌めきひとつ零さないように固くなっている。あれが鋭く光るときには私は腹を裂かれて死んでいるのだろう、丁寧に尖らせて集約した点の身体がひとつではなくて。

 

 

頭の前半分が水っぽくて上手に働かない。うまく言葉が出てこない日で、「おつかれさまです」さえ言えずに硬直する。視界も随分と狭い、見えているものを認識するまでにひどく時間がかかるから、そこにひとがいると気づけない。ひとりで子ども部屋にいて、あらゆるものを書き出す作業に没頭している。

 


1.オレンジコーラ、ニューレモンライム、ケインミント、アフザルオレンジ
2.ラヤリナバニラ、デバジピーチ

 


膨張した空気で満ちた肺の機能の低下は甚だしく、揃えた指で軽く押したら木の実みたく弾けてしまいそうな潤声の水端。身悶えしても焦げ付かないのは梅雨の空ゆえで、電話線もない端末だから人差し指さえ慰められない。抜けた指輪が落下して、静かな仕草で着地する。膝に乗せられた頭骨の曖昧さ。遠くで音がしたけれど、濁った水さえ零せば煌めく、安物でいいから小指が欲しい、何の音かはわからなかった。