彼女のボタンを外して欲しい


無心になって具現化していくと結局のところ、結局のところ。
抑制を外してはいけない、外に向けていいはずがない。誰のことも責めたくないし、できれば優しくありたいのだ。ありたい自分であるために綺麗に潰されて畳まれている自分がいて、ぎりぎりで貼り付けた浅い笑みだって呼吸困難の前に剥がれているけれど、そのへんについてはどう思っているのだろう。見ていられない。自意識が邪魔くさいので丁寧に丁寧に屠らないといけない。そこで死んでしまえばいいのに。

 

 

抗生物質を飲んでいるせいか、それとも季節の変わり目のせいか、きちんと寝ても頭が立ち上がらない。座っていられないほどの眠気は定期的に来るけれど、それでもここ数ヶ月は落ち着いていたから毎日驚いている。
人目につかないようにフラフラ移動してそのまま倒れて切り離す300秒程度の時間、死ぬ間際の猫の気持ちがわかる気がする。
清掃されたばかりのトイレで見る夢は決まって過呼吸を起こす夢。ドアをガンガン叩かれて、「平気です、平気です」と言いたいのにヒュウヒュウと切れ切れの不格好な呼吸が漏れるばかりで、尚更強く叩かれるドア、比例して浅くなる呼吸、そんな風に途方に暮れる夢。ハッと目を覚ますたび、つられて胸が苦しくなっている感覚があって具合が悪い。それでも頭が落ちたままの日もあって。

 

 


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普通でなくても構わないがマトモでいたい、いなくてはならない。典型的な「ねばならない」だ、とにかくこれを捨てねばならない。食欲と性欲以外の欲の総ては恥ずかしく、決して口にしてはいけないと硬く結んである。息苦しくて面白くない、あそびに乏しいにんげんだと我ながら思う、そう思わねばならない。


誰かの手を汚してはならない、自分の手だけを汚すべきだ。きりきりと絞めあげながら、早くどちらかがくたばってくれたらいいのにと願っている。そう、わたしはきちんと強い、くたばらずに生きている。
早く窮屈な靴を脱ぎたい、心は裸足で自由に跳ね回るべき、そうあるべきなのだ。自律しないとすぐへたる。コルセットに頼り切ったせいでとうに背骨は解けている。
一発泣き喚けば済む話だろうけれど泣く理由も見当たらない。うずくまっても涙も吐瀉物も出てこない。

 

結局ひとりで最後まで生き抜くことなんてできないのだし、自分が自分を縛ることが苦しくて泣いているなどつまらない。他者に任せて宜しく投げ出して、好き放題わがままを口にして生きるべきだ、ああまた癖で「べき」などと。そうやって生きるほうが楽しいはずだ。

 


はっきりとわかることは、いまの自分では自分を助けられないということ。わたしはこれの首を絞める手を離すわけにはいかない、だから君は、彼女の襟元のボタンをいくつか外して緩めてあげて欲しい。
自分の暴力性が他者に向かないことを祈っている、引き受けてくれている、助かるよ。