いつかきちんと凝固めてあげる


わたしはとんだ臆病者で、何も言わずに死ぬ厄介な生き物だ。強い刺激を受けるとわかっている単語でキーワード検索を掛けて、いつまでもくっつかないから抜糸に至らない傷口を揉んでしまう。これは悪だと思っている、助けてくれと思っている。そんな甘えた自分を丁寧にすり鉢でゴリゴリして、とにかく手前で何とかするしかない。いい子でいたい、ずっといい子でいたい。早く全部ぶっ壊れてしまえ。「好きなものを選び取る喜びをひとに譲ってしまっているのです」などと。

わかっている、わたしの問題はおそらく、煎じ詰めればこれなのだ。わたしさえいなければきっと総てはうまく回ったのだと強く思い込んでいる。そうでなくては困るとさえ。いけない、これは大変に宜しくない。だいぶんマシになってきたと思っていたけれど、それはこういう機能を使わないで済むことばかりしていたからだ。
早く楽にしてあげたい。首を絞める手を緩めるつもりはない。

 
驚異的なバランス感覚でここに立っている。普通のにんげんならとうに失神しているところで、わたしは気のひとつも違えることなく睨み返すさえできる。こんなに首を絞められても胸を突かれても、呼吸ひとつ乱すこともない。記憶は薄いのに焦燥だけは思い出せる。誰のことも恨んでない、信じてはもらえないかもしれないがひとつも恨んでない。無力だったわたしが悪い。

 

 

大好きな情報を聴いている。彼は美しい、というより、美しさの基準を彼に定めた。その背筋、鼻筋、矜恃。神経を走るチカチカした光たち。意識は遠くにあるほうがいい。星に成りたい、星に。

寄せた鼻先に触れた睫毛が微細に振動して、気が触れそうになる。水と酸素と日光と、それだけあれば充分に生きてゆける。早く熱を入れて凝固させたい、たんぱく質ならばの話ではある。

漸近している。漸近しているのだ。

 


なんにもなくて空っぽで、空洞の真ん中に立つひともいなくて、支える肋骨もなければ抜け落ちる心臓もない。
なんにもない、幻だったらよかったのに幻でもない。いつか誰か、そこにいましたか?
どこにもいない、最初からどこにもいなかった。どこかにいたことなどなかった。
ネイキッド! 簡単に裸になれるよ、だけど服を脱いだってそこには誰もいなかった。

 

とまあ、
このようにまだ嘔吐ができて、嘔吐ができる程度には臓器の機能も十全で、ひとに道を譲って頭を下げるたびに泣きたくなる程度には感情も動いて、簡単に嘘を書きつけられる。恥ずかしいやつだね、歌ってあげる。