上視に笑い舌

 

身体が際限なしに外側に散らばって自分が流れ出してゆく、崩れてゆく身体を血液を一滴一滴刻みつけるような気分で文章を書いている。覚えていないけれどきっとこういう瞬間をたくさん超えてきたはずなんだ。文章を書くこと以外できない状態に陥ったのが初めてではないような気がするから。こういう状態に陥ることがあったなら、わたしはきっと文章を書くと思うから。

同じことをさっきから何度も言っているのだろうが毎瞬新鮮に血が溢れてきて初めて触れる外気にそうやって自己紹介をするのだ、わたしの声じゃない。統べる力がなくなっているのだろう。自分の引力が弱まって溶け出してゆく。わたしが誰だか聞かせてよ、あなたの知っているわたしの話を。

 

一時期、よく新宿から神楽坂までを歩いていた。週何日か、友人のゴミ屋敷まで。その夜道ではなぜだかよく散々な心持ちになっていて、というよりきっとその頃ずっと散々な心持ちでいたのだろうとは思う。1時間の夜道に逃げ場はなく、防衛省の前あたりで憂鬱はピークを迎えていた。歩きながらたくさん文章を書いていて、画面を見ずに打てるのが好くて、身の回りでは最後まで従来型携帯を使っていた。あのとき書いた文章たちは吐瀉物として取り扱っていたのでここにはないが、いまは取り繕いもしなくなった様子。3355411

ひとに言えないことばかりが積もった身体に、身体だけに用があるからセックスしようって旨の連絡が届く。お前にどんな言葉が扱えるんだよ、っていうかそもそもお前は誰なんだ、どうして誰かもわからない輩から連絡が来るんだ。どうしてそんな連絡しか来ないんだ。
とりあえず脳を愛でろよ、話は全部それからだ。セックスまでしたとしてそのあとも愛でろよ、とにかく全部に疲れたんだ。意図が切れたあとの心身に捩じ込む余地はないが付け入る隙は生まれるようで、吐くことになる前に拒絶してゆく。わかっていて毒を飲むタイプの愉悦は全然いらない。

 

 

XX歳の頃、初めてインターネットに自分の場所を作った。自己紹介の欄に「渋谷のスクランブルが嫌いです」と書いたこと以外の一切を忘れた。今は新宿を燃やしたい、愛しているから、あらゆる喜怒哀楽をそこでやったから。どこをどう切ってもわたしの情念がうっすら積もっていて知らない道が少ないから。愛しているものから壊すのだと、先程から知らなかった自分のことを見ている。
さっきそんなことを書いて投稿した気がするし、書かずに消した気もする。まあどうでもいい。何度同じことを言ってもいい。今のわたしに状況をまとめて発展させることはできない。要点なんてない、あるなら「この心臓にピンを挿して」だ。

そういえば心臓はもうあげてしまったんだった。

それからきっと忘れてると思うけれど、君には両方の小指を揃えて落とした。誰も彼も忘れてゆく、わたしだってきっと忘れていることばかりで、でも自分の身体の何を切り分けたのかだけは覚えている。
あなたの何をもらったんだろう、君は何をくれたかな、哀しくて酷い混乱のさなかに何を泣きながら書いているのか自分でもさっぱりなんだけど、もしあなたがくれたものがあったなら、わたしはちゃんとそれを食べて血肉にしたから、もう絶対になくさない。わたしの差し出した身体たちもそんな風になっているならいい。なくさないで、消さないで、なかったことにしないでよ。

 

「終わったらそんなものだよ」と彼女がからりと言ったから驚いた。美点と汚点が同一のものだなんて、あの盲腸さえも知ってる〜って飽きた声で言ってました。誰かにとっても、自分にとってもそうだ。考える余裕が出るまでただ黙って文章を吐き出し続けていればいい。

 

ここまで書いて手を止めてみた。あんまり良い方に思考が働いていないことはわかる。許してくれって思っているけれど誰に思っているのかわからない。胸が苦しい、息が苦しい。

誰もいなくてもわたしの中にたくさんのひとがいて、みんな揃って路頭に迷っているからさみしくない。みんな静かにいなくなることができて、そこには儀式さえ必要ないことが多く、いつもねじ切られるような気持ちでいる。血まみれの玉結びが更に向こうで切られている。おかしくなると「お前の血は汚れているのだから迷惑をかける」と言われたことを思い出す。鮮やかに大きく傷ついたのだろう、50gで80000円のキャビアの缶は綺麗なターコイズ、最後は足首に気配がよぎる。

祈られなくても人生は続く、祈らなくても心臓は止まらない。それでもどうして膝をつけるのか、わたしの腕を縛り上げて欲しい。そしてそれはセックスとは全く一切関係のない行為であって欲しいのだ。ただ祈りたい。ただ祈られたい。生活には向かない心身をどうしてまだ抱き締めているのかわからない。「ライターですか?」と二言目で言われて脱力した。こんな吐瀉物を撒き散らすことに特化した、それはペンだこではなく吐きだこなのだ。